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「元・天才テニス少女」が引退を決意した切実な理由 森田あゆみ33歳「寝られない。腹筋1回すらできなかった」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【日常生活でも字を書いたあとなどに痺れが続き...】

 話は4年近く、さかのぼる。

 2019年、徐々に試合に出始めた当時の彼女に取材した時、瑞々しいまでの向上心と、「かつていた場所に戻れる」と信じる心の強さに、驚かされたことがあった。

「100位に入っていた時のプレーの感覚は、まだ覚えていて。どんな感じの動きをして、どんなテニスができればこのくらいまで行けるという目安は、今でもあるんです」

 確固たる身体の記憶は、進むべき道を指す羅針盤となる。「来年中にはグランドスラムの予選に出ること」と、目的地も明確に定めていた。

 ただその頃、計器の針を狂わす因子は、すでに水面下でうごめいていた。

 2018年の夏に、彼女は右手薬指の腱を脱臼し、縫合の手術を受けている。その後、痛みは消えるものの、頻繁に痙攣(けいれん)するようになった。それはテニスだけでなく、日常生活でも字を書いたあとなどに痺れを覚えるようになる。

 この痺れは、手首の痛みよりもはるかに深く、彼女を苦しめたという。

「指の付け根を手術してから、力の入り方など手の感覚が変わってしまい、そこが大変でした。手首の手術後は、テニス面での問題はそれほどなかったんですが、指をやってから、思うように打てないと感じることが多くなったんです。

 それでも2019年の頃はまだ受け入れて、前向きにできていたんですけど......。それがだんだん、だんだんと自分のなかで以前と同じ感覚ではなくなっていって。

 ストロークが武器だったのに、そこが思ったよりも以前と同じようにできない。もともと力まないで打てるほうだったのに、力んでしまったり、手が引きつる感じがあったり......。そこがストレスだったのは間違いないなって思います」

 痛みならば、我慢できる。時が解決してくれると思ったし、実際に痛みが引いたあとは、以前と変わらぬ感性でボールを打てていた。

 だが、指の腱の脱臼は、彼女が何より頼った「感覚」を変えてしまう。それは天才肌のアスリートにとって、正しさの指標を失ったに等しかったのだろう。

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