加藤未唯は「失格後」の混合ダブルスにどんな思いで臨んだのか 逆境からの優勝に「ようやく笑えて」スピーチにはいろんな思いを込めた (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • 説田浩之●撮影 photo by Setsuda Hiroyuki, AFLO

 運命の10ポイントタイブレークでは、序盤で加藤がボレー、さらにはスマッシュを決めて、勝利への流れを力強く生んだ。最後は相手のショットがネットにかかり、勝利が決まる。その時、両手を天に突き上げた彼女の口もとから、ようやく笑みがこぼれた。

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── 決勝戦では、第2セットの終盤から躍動感が増した感じがしました。何か気持ちの変化などあったのでしょうか。

「ファーストセットは先にブレークしながら落とし、第2セットも序盤のチャンスを逃して、『残念やな』って思ったところはありました。その頃から、私の名前を呼んで応援してくれる声も多く聞こえてきたので、がんばらないと思ったのは覚えています。

 人生で、グランドスラムの決勝に立てる日が来るとは思っていなかったので、それを思うと、こんなところで『ああ、残念だったな』と思っている場合じゃないなという気持ちは、ありました。

 第2セットの最後のゲームでは、パートナーの動きがちょっと硬いところがあったので、『私が決めにいかないと』と思い、ボレーで積極的に動いたというのはありました」

── そこから優勝が近づくにつれ、気持ちの盛り上がりなどは?

「なかったです。優勝した瞬間に、ようやく笑えました。あの時が初めてでした、ちょっと『うれしい』という感情が出てきたのは」

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 頂点の空気を吸うと当時に、膠着していた心がいくぶん氷塊したかのように、胸に広がる喜びの感情。

 そうして立った優勝セレモニーの舞台は、彼女が目指した「自分の思いを主張できるところ」であった。

 あらかじめ用意していたウィナースピーチに、彼女は思いの丈を込める。

 ボールガールには、謝罪を。失格となった試合の対戦相手には、再戦への希望を。そして大会側には、失格によって失効したランキングポイントを戻してほしいとの願いを。

 それらのメッセージに込めた思いとは──?

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