加藤未唯は「失格後」の混合ダブルスにどんな思いで臨んだのか 逆境からの優勝に「ようやく笑えて」スピーチにはいろんな思いを込めた (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • 説田浩之●撮影 photo by Setsuda Hiroyuki, AFLO

 あとは、相手の選手からも優しい言葉をかけてもらえて。まだここにいていい、辞めなくてもいいのかなと思えたのは、『うれしい』とまではいかないにしても、ほっとしたので、たぶんそれで涙が出たんだと思います。ミックスで優勝していなかったら、もしかしたら辞めていたかもしれないので」

── そのような状態でも、試合での加藤さんのプレーそのものはよかったように見えました。

「そうですね、あの試合はいいプレーだったと思います。感情的に何も感じない分、逆にのびのびとできていた部分もあったかもしれません。たぶん、あの試合(準々決勝)の相手が一番強かったので、あそこを乗り越えられたことで、勢いがついたところはあります」

── そして準決勝では、女子ダブルスのパートナーであるアルディラ・スチアディ(インドネシア)との対戦になりました。試合前に彼女と話したりしましたか?

「彼女は、常に優しい言葉をかけてくれていました。なので、私が先に準決勝進出を決め、その次にディラ(スチアディ)が決めた時は、私から『明日はよろしく。いい試合をしようね』と声をかけました」

── そしてこの準決勝も勝利し、決勝戦へ。センターコートに入った時、緊張や高揚感はありましたか?

加藤「いえ、あの時も、特に何も感じてなかったんです。感情的に『無』の状態で、今から試合だな......くらいでした。気持ちの高ぶりとか感激とかも、一切なかったです。今までのテニス人生で、そんな感覚でコートに立ったのは初めてでした」

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 テニスキャリアで初めて経験する、感情の動きが皆無に近い状態で立った、グランドスラム決勝戦のセンターコート。

 ただ、そのような精神状態とは裏腹に、第1セットを先取されたあとの第2セット終盤から、加藤の見せ場が続いた。ゲームカウント4-4から加藤のボレーでブレークに成功すると、続くゲームも連続ボレーで第2セットを奪取。

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