加藤未唯の「失格問題」で最も重要なこと...レフェリーは実際に何が起きたか映像を見ることなく、判決を下していた

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Kyodo News

「est une disqualification」

 主審がそうアナウンスした時、フランス語はわからなくとも、笑顔で帰り支度を始めるマリエ・ブズコバ(チェコ)とサラ・ソリベス・トルモ(スペイン)を、そして呆然と佇む加藤未唯とアルディラ・スチアディ(インドネシア)の姿を見れば、内容の想像はついていた。一斉に沸き起こるブーイングが、観客たちの不満の感情を映す。

 ただ、それでも信じられず、となりにいたフランス人のスタッフにたずねた。「今、主審はなんてアナウンスしたのです?」と。

「失格により、あっちが負けたんだよ」

 彼女はそう言い、まだ動けずにいるふたりのほうを指さした。

ボールガールに謝る加藤未唯(右)ボールガールに謝る加藤未唯(右)この記事に関連する写真を見る どこかで、わかっていたことではある。ただ、あらためて耳にすると、こちらもしばし呆然とたたずむしかなかった。

 全仏オープン、女子ダブルス3回戦。加藤がボールパーソンに"危険球を当てた"として、敗戦を言い渡された場面である。

 問題となった"危険球"がいかなるものだったかは、おそらくはすでに多くの方がご存知かと思われるので、ここでは客観的な事実だけを記す。

 第2セットの第5ゲーム、30オールの局面。

 自陣のネット際に落ちたボールを、加藤はラケットですくいあげ、バックハンドでスライス回転をかけて、相手コートのコーナーへと送った。

 ボールが向かった先にいたのは、ボールガール。ただ、サーブを打つ選手にボールを渡すべく集中していた彼女は、向かって飛んでくるボールに気づくのが遅れたようだった。結果、ボールは直接、彼女の首の付け根付近に当たる。

 客席から、「オオッ」と小さな驚きの声が漏れた。

 主審は、ボールガールに「大丈夫?」と声をかけ、少女は小さくうなずく。その様子を確認した主審は、加藤に「警告」を告げた。

 この時になって、対戦相手のふたりは初めて、ボールが少女に当たったことに気がついたようだ。ふたりは主審に詰め寄り、「いや、あれは失格だ、失格だ!」と抗議をはじめたのである。

1 / 4

著者プロフィール

  • 内田 暁

    内田 暁 (うちだ・あかつき)

    編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。

【写真・画像】今年の全仏ジュニアでも大活躍!美少女テニス選手・クロスリー真優の「お宝フォトギャラリー」(12枚)

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る