加藤未唯の「失格問題」で最も重要なこと...レフェリーは実際に何が起きたか映像を見ることなく、判決を下していた (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Kyodo News

【前例となったジョコビッチの件】

「誰かケガをしていますか?」と、加藤たちは問い返す。

 すると、レフェリーは「あの子は泣いている。自分がここに来るまで時間がかかったが、それでもまだコート上で泣いていて、泣き止むことができない。それだけ深刻だったということだ」と言い、こうも加えた。

「これは、ニューヨークでジョコビッチに起きた件と同じだ」

 ほどなくして主審は、マイクに口を近づけ、試合の終了をアナウンスする。最後の「失格」を口にする前、言葉にするのをためらうように、しばしの空白の間があった。

 なお、加藤とスチアディは「そんなに強く当たってはいない。ビデオを見てほしい」とレフェリーとスーパーバイザーに主張したが、「それはできない」と言われたという。

 今回の行為が「失格に相当する」との論拠が、全米オープンでのノバク・ジョコビッチ(セルビア)のケースなら、それはルールブックに記されている、以下の要綱が適応されたことになる。

『危険もしくは無謀なボールをコート内に故意に打つ、もしくは、不注意に打ったボールが深刻な事態を招いた場合』

 なお、3年前のジョコビッチは、横を向いたままベースライン後方にボールを打ち、それが線審の喉を直撃したがゆえの失格だった。

 以上のレフェリーの発言をかんがみると、今回要点となるのは、加藤の打ったボールが「危険や無謀な打球」もしくは、「深刻な事態を招いた」かである。ただ、レフェリーは実際に何が起きたか映像を見ることなく、判決を下していた。

 一連の案件について、レフェリーのレミー・アゼマールはフランスの公共ラジオ放送局『フランス・アンフォ』の取材に、次のように語っている。

「これは不運な出来事ではあります。ただ、選手は自分の行動の責任を取らなくてはならず、時にその責任はとてつもなく重いものです」

 さらに判断を下した経緯については、次のように説明した。

「呼び出しがかかった時、私はオフィスにいました。オフィスから試合が行なわれた14番コートまでは距離があり、着くまで6分ほどかかりました。

 コートに向かった時、事前情報は一切ない状態でした。ですから現場で聞き取りし、その場で判断しなくてはいけなかったのです。私は素早く状況を分析し、そして、正しい判決を下しました」

 さらには「あの日、選手(加藤)の会見をしないことを私が決めました。会見をする前に、自分が選手とちゃんと話をしたかったからです」とも明かした。

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