錦織圭いわく「修行に向かう仙人」。
杉田祐一がスランプから脱出した (3ページ目)
「あ、これだって。負けたんですよ。あっさり負けたんですけれど、そこで、『あ、もしかしたら戻れるかな』と思いました。そこまで練習で自分を追い込んできたから、パッとできたのかも。いろんな方のサポートがあるなかで、ピースがカチカチッとハマっていった感じです」
自身のなかに見出したその感覚を、彼は勝利という可視的な結果へと昇華する。7月から8月にかけて、ATPチャレンジャー優勝2回、準優勝1回という戦果を得て、自信を確信に変えていった。
さらに10月のストックホルム・オープンでは、予選決勝で敗れるも、ラッキールーザーとして本戦に繰り上がる。そのラッキーを生かしてベスト8に勝ち上がった杉田は、準々決勝で今季を最後に引退を表明している元世界8位のヤンコ・ティプサレビッチ(セルビア)と対戦した。
結果的に、ティプサレビッチのツアー最終戦となったこの一戦で、杉田は、なぜ自分はテニスをするのかという問いへの絶対的な解を得る。
7度の手術を乗り越え最後の大会に挑むティプサレビッチは、テニス人生のすべてをかけてボールを追い、全身全霊を込めてラケットを振り抜いた。そのファイターの情熱に呼応するように、杉田も一打一打に声をあげ、全力でボールを叩く。試合時間は3時間を越え、最後は両者とも痙攣した足を引きずる死闘の末に、杉田が10度目のマッチポイントで勝利をもぎ取った。
「こういう一戦を、何よりも大切にしなくてはいけない。こういう、ぶつかり合う試合を」
それが、テニスをやってきたなかで最高の瞬間ですよね――。あの時の熱を再確認するかのように、一語一語を噛み締めながら彼は言った。
不器用な己を自覚し、自身と真摯に向き合い苦しみを乗り越えた今、彼はかつて至った場所の、その先を目指している。
「今まだテニスをやっているのは、36位を越えられると思っているから。ツアーで暴れたいですね。自分のプレーを、もっともっと多くの人に見てもらいたい。魂込めて、打っていきたいです」
それこそが、彼が見たいと欲する景色だ。
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