2019.11.16

かつての天才少女・森田あゆみ。
幾度の手術と失意も「テニスが好き」

  • 内田暁●取材・文・撮影 text & photo by Uchida Akatsuki

「もう、忘れちゃいますね……」

 彼女はそう言うと、求める答えを探すかのように、虚空に視線を泳がせた。

 その口調や仕草は、まるでこの1週間の食事メニューを思い出すかのように、ごく自然で力みがない。だが、彼女が今、振り返ろうとしているのは5年を数える年月であり、幾度にも及んだ手術とリハビリの歴史である。

 かつての”天才少女”の森田あゆみは、今年、29歳を迎えていた――。

安藤証券オープンに出場していた森田あゆみ 森田が世間の耳目を集めたのは、15歳の時だった。

 この年にプロに転向すると、ジュニアのトップグレード大会「世界スーパージュニア選手権」でシングルス準優勝、ダブルスでは頂点へと達する。さらにその翌月の全日本選手権では、15歳8カ月にして賜盃(しはい)を抱いた。これは今も変わらず、大会史上3番目の年少記録である。

 活躍の場を世界に移してからも、彼女は着実に成長と進歩の足跡を刻んでいった。17歳にしてウインブルドン予選を突破すると、18歳を迎えると同時にトップ100入りをも果たす。キャリア最高ランキングの40位に達したのは、2011年10月。21歳の時だった。

 だが、そこからの数年間、数字的には伸び悩みの時期が続く。フォアとバックのいずれも両手で放つ強打は上位選手をも粉砕するが、攻守のかみ合わせがひとたび狂うと、下位選手に敗れることも珍しくない。なにより、ある頃から、棄権での敗戦が目に見えて増えていった。

 この頃、すでに10年近くに及ぶプロキャリアを過ごす彼女の身体に蓄積された歪みと痛みを知る者は少なかっただろう。

「一度、しっかり休んで身体を完治させたほうがいい」

 WTAのトレーナーも含む周囲の人々の進言に従うことにしたのは、2014年の夏だった。

 この頃、彼女を最も悩ませていたのは、腰の痛みである。生来の柔軟性を活かして身体に巻きつくようにラケットを振る彼女にとって、腰部はまさに根幹だ。