かつての天才少女・森田あゆみ。
幾度の手術と失意も「テニスが好き」 (3ページ目)
それでもコートを離れられなかったのは、長期間休んだら、「それまで強化した筋力が落ちてしまい、テニスを再開した時にゼロから作り直さなくてはいけないのでは......」との不安に襲われたから。だが同時に、一度痛みを知った身体は、意識とはまた別の次元で恐怖を覚え、ボールが来ると勝手にすくむ。
「それでも、テニスをやらない日は1週間となかったので......だからまあ、好きなんだと思います」
つと自分と向き合うように、彼女は柔らかく笑った。
その森田に、テニスの何が一番好きかと問うと、「それは勝った時ですよ!」と間髪あけず明るい声が返ってきた。
勝った時の喜びが、あるいは勝負に身を置く緊張感が忘れられないからこそ、彼女はこの4年間、あきらめず練習コートとジムに通い続けたと言うのだ。友人の選手には、「テニス以上に楽しいことはなかった。勝った時の喜びがあれば、それまでのつらいこともすべて忘れられる」と打ち明けたと言う。
そして、そんな彼女の想いを支えていたのは、もうひとつの忘れることない記憶......。「いい時の自分の感覚」という、身体の記憶だ。
「100位に入っていた時のプレーの感覚は、まだ覚えていて。どんな感じの動きをして、どんなテニスができればこのくらいまで行けるという目安は、今でもある」と、彼女は迷わず断言する。その記憶をコンパスとし、全盛期のイメージと今の自分を重ねながら、球出しなどの練習でも世界のトップと戦うことを想定し、「早いタイミングと高い球質」を追い求めてきた。
そしてこの秋、彼女は身体に刻まれた記憶が正しかったことを、周囲に、そして自らにも証明する。
9月に出場したITF(国際テニス協会)主催の下部大会では、3つの快勝を連ねてベスト4進出。さらに今週(11月11日~17日)開催の安藤証券オープンでも、初戦で350位の選手を圧倒。2回戦では昨夏にメスを入れた薬指近辺に痙攣(けいれん)を覚えて失速したが、世界105位の選手相手に常にリードを奪い、互角以上に渡り合った。
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