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「ラケット破壊」への悔い。
感情を抑え込んだ加藤未唯が最後に笑うまで (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「やっちゃった......」

 日ごろは「いいことでも悪いことでも過ぎたら気にしない」彼女が、このときばかりは深い悔いを引きずった。コーチや親族たちに迷惑をかけたことも、後悔に拍車をかける。ましてや全米オープンの次に出場するのは、日本開催のジャパンウィメンズオープンだ。

「新しい自分を見せなくては」

 その想いが、彼女にひとつの決意をさせた。

「自分の思っていることや感情を一切、表に出さず、気持ちの変化がないようにする」

 それは誰に相談することも、誰に打ち明けることもなく、彼女が自身に課した戒(いまし)めにも似た誓い。表出を禁じた感情には、喜びや楽しみまでもが含まれた。たとえポジティブな感情でも、高ぶりすぎてしまっては、制御できなくなるかもしれない。「喜」への跳ね上がりを抑えることで、反動としての「怒」をも封じ込める――。それがひとり考え編み出した、彼女なりの"自制術"だった。

 ポーカーフェイスの内に固い意思を抱いた決意のテニスは、まずは予選3連勝と本選出場を彼女にもたらす。それでも、予選決勝の最終セットで大きくリードしながら追い上げを許したことを、彼女は「いい内容じゃなかった」と悔やんだ。高ぶる感情を抑え込みながらの戦いは、「まだ、あまり心地よくない」と彼女は明かす。試合を見に来てくれた人たちの目に、気迫が足らないと映るかもしれないとの思いもあった。

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