【テニス】5度目の対戦。錦織圭がナダルを本気にさせたワケ (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki
  • 神仁司●写真 photo by Ko Hitoshi

 だが錦織が、「キング・オブ・クレー」の真の恐ろしさを知るのは、ここからだ。

「彼の重いボールと、どんな球も拾う強さを感じた。どうしてもそこを崩せなかった」

 会心のショットを放っても、腕に残る快打の感触に反して、深くて重いボールが帰ってくる。しかもこの日のローラン・ギャロスは、赤土を巻き上げるほどの強い風が吹き抜けていた。「彼の深いスピンのショットが風に乗って、より嫌なボールになっていた」と錦織は嘆いたが、これも「自然」と戦うことを求められるクレーコートで、全仏3連覇中のナダルが絶対的な強さを誇る所以(ゆえん)だ。加えるなら、この日のナダルは、今大会の過去3試合とは見違えるほど好調だった。誕生日に戦うことは「特別なモチベーションにはならない」と本人は笑うものの、いつも以上に気合が入っていたのは間違いない。

「今大会はフォアハンドの感触が悪かったが、今日はとても良かった。平均より良い出来だったと思う」

 全仏55勝1敗の実績を誇るナダルが自画自賛する出来栄えでは、世界広しと言えども勝機を見いだせる選手は少ないだろう。試合時間、2時間2分。4-6、1-6、3-6の敗戦を言い表す言葉は、「完敗」かもしれない。

 だが、グランドスラムのベスト16で繰り広げられる戦いとは、それほど単純なものではないはずだ。互いを認めるふたりの実力者が、高さ約1メートルのネットを挟んで対峙したとき、交わされるのは多種多様なショットだけではない。過去の対戦や心理的な駆け引きなど、さまざまな要素がコートを行き交い、複雑に絡みながらスコアを刻む。

「彼と、正々堂々とやろうと思い過ぎた」

 ナダル戦で見せたプレイの内実は、錦織のこの言葉にこそあったのではないだろうか。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る