検索

女子フットサル代表・松本直美は「三足のわらじ」 狙うは「ワールドカップで優勝!」 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【保育士、銀行員、小学校教諭......ノンプロたちが苦労の末に得たW杯出場権】

 言霊の引力があったのだろうか。彼女はすぐに頭角を表わした。月謝を払い、時に仕事を休み、プロでないが故の代償は大きかったが、集中したプレーは高い評価を受け、日本女子フットサルリーグでプレーするようになった。2021年には、現所属先でもある強豪のバルドラール浦安ラス・ボニータスに移籍。同年には代表にも選ばれ、国際大会で優勝し、MVPも受賞した。そして今年5月のアジアカップで優勝に貢献し、初のフットサル女子W杯の出場権を得た。

「アジアカップはみんなで勝ち取ったものですね。決勝戦の相手はタイで、グループステージでは負けていたので、(勝ちたい)思いは強かったです」

 松本はそう言って、決勝戦の夜を振り返った。

「試合が終わったのは遅い時間で、ホテルに戻ったのは0時過ぎ。当日は、ほぼちゃんとした食事は取れなかったです。次の日の朝5時に出発だったので、私はほとんど眠れずに荷物をまとめて...とにかく全力を出し尽くしたのと眠いのとで、優勝した実感は全くなかったです(笑)。」

 女子フットサルの状況を好転させるには、勝ち続けるしかない。松本だけでなく、全員の代表選手が保育士や銀行員、小学校の先生など、それぞれ仕事を抱えながら戦っている。日本では世界トップを争うようになって、ようやく注目度が高くなる。その意味で、W杯は格好の舞台だ。

「初めてのワールドカップなので、優勝を狙っています!」

 松本は明るい声で言う。

「アジア王者としての誇りを胸に、挑みます。同じグループのポルトガルは強豪で、これまで一度も勝てていませんが、必ず勝利してグループステージを1位で突破したいと思っています。

 私たちは"ハードワーク世界一"をチームのテーマに掲げています。どんな試合でもチーム一体となって走り続け、自分たちのフットサルをピッチで体現できるように。最後までハードワークし続けて闘います」

 フィリピンで、彼女は新たな道を切り拓く。

「いちばん大切にしてきたのは、"楽しい"という気持ちです。だからこそ、私生活の時間を削ってでも続けられているのだと思います。私は普段こんな(控え目な)感じなので、穏やかな性格に見られがちなのですが、ピッチに立つとファイターなんです。守備からしっかりハードワークして得点につなげるところが自分の強みだと思うので、そこを見てほしいですね。

 初のW杯で、優勝という最高の結果をつかみ獲りたいです!」

 決戦に向け、松本はそう豪語した。

この記事に関連する写真を見る

●Profile
松本直美(まつもと・なおみ)
1997年10月22日生まれ、東京都出身。5歳の時にサッカーを始める。ジェフユナイテッド千葉U-18でプレーし、一度は競技を引退。調理学校へ進学後、ホテルに就職するも、遊びで誘われたフットサルに参加し、忘れていた競技への思いが再燃。ホテルを辞め、埼玉県の「十条FC」を経て、当時日本リーグの「さいたまSAICOLO」に入団。2021年には、現所属である強豪チーム「バルドラール浦安ラス・ボニータス」に移籍した。
2021年6月に日本代表に初選出。2025年4月に開催された「SAT Women's Futsal Championship 2025」で日本代表は優勝し、松本自身もMVPを獲得。2025年11月に、史上初開催となるワールドカップに向けた日本代表メンバーにも選ばれている。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

【写真13点】美しきフットサル女子日本代表・松本直美

3 / 3

キーワード

このページのトップに戻る