【バスケ】富士通・町田瑠唯にふさわしい「史上最高のPG」の称号 ライバルも「なんで止められないのかというと...うまいからです」と脱帽 (2ページ目)
【童顔とニコニコした表情に中和されてしまう円熟のプレー】
勝っても満足しない町田だが、そのプレーは「史上最高のPG」にふさわしいものだ photo by Kaz Nagatsukaこの記事に関連する写真を見る
町田は今シーズン、平均9.4を記録しキャリア8度目のアシスト王となったが、ファイナルでは相手の徹底マークの前に同7.2本に終わった。勝利した第4戦にいたっては3本のみと、彼女としては目を疑うような数字だった。だがそれは、彼女がひとりでチームを回す必要がなくなっていたことを指し示していたとも言えた。
それでも、要所を締めるのは町田だった。パスを通すだけでなく少しでも隙があれば一気に加速し、レイアップで得点した。得も言われぬ安心感があるから、ほかの選手たちも躍動できた。
富士通のBTテーブスヘッドコーチ(HC)はアシスタントコーチ時代を含めると10年間、町田とともに歩んできた。「パスがメイン」(テーブスHC)だった町田には常々、自身による得点も狙わなければだめだと説いてきた同HCだが、今の彼女については「点を取りにいくところが非常によくなったと思う。クラッチタイム(試合を左右する終盤の重要局面)での彼女のシュートには自信があります」と話した。
しかし、真に相手に精神的打撃を与えるのは町田のパスからの得点だ。同じ試合の第4クォーター、残り7分半強。インバウンズプレーから攻撃を開始した富士通は、町田が中央から中に切り込み、相手の3選手を引きつけると、逆サイドの3Pライン外にいた宮下希保にふわりとしたパスをさばいた。相手のブロックが来てはいたものの、宮下が迷わず放った3Pシュートはリングに吸い込まれ、11点差にリードを広げた。
瞬間、宮下と町田は目を合わせながら大きな笑みを浮かべた。優勝を、連覇を大きく手繰り寄せるプレーだった。
映像を見返しても、町田が宮下のことを見ているようには思えなかった。だが、見ていなくてもわかるのだ。
コート上にいる町田にはどのような視界が広がっているのか、あるいは彼女の目線がどこにあるのか、知りたいと思うことはないだろうか。しかし町田にそのことを聞いても「なるほど、そうなのか」と合点がいくような言葉はなかなか出てこない。やはり、そこは彼女のもつ鋭敏かつ言語化の容易でない感覚的なものだということか。
「才能だよ」
ファイナル初戦でパスを次々と決め富士通の連続得点を演出した場面について問われた町田が「シンプルに目の前のディフェンスを見て判断をしていた」という、至極もっともな回答をすると、テーブスHCがニヤリとほくそ笑みながら端的にそうつけ加えた。
スポーツ選手を「才能がある」と評するのは、ともすればその彼、彼女の努力を鑑みないことになりかねない。だが、町田のプレーを目の当たりにして彼女にそれが備わっていないなどとは、とうてい言えないはずである。
ファイナルが終了して、町田はプレーオフの最優秀選手とベスト5に選出された。仲間がそうした賞をもらうと喜ぶのに、自身の名前が呼ばれると軽い困惑の表情を浮かべるのが彼女らしい。優勝をしてMVPに選ばれても、口をつくのは相変わらず反省と課題についてばかりだ。
「正直、優勝をしたのも私の力とかではなくて、本当にチームの全員が頑張ったからこその優勝ですし、私のMVPもみんなに獲らせてもらった気持ちでいます。まだまだやることが自分のなかではあるかなと思います」
町田は昨夏のパリオリンピックに出場した。先発司令塔として出場し日本の銀メダル獲得に貢献した東京大会から一転、全敗を喫し「やりきれなかった」と失意を表した。そんな経験もまた、Wリーグでの優勝を再度、獲りにいく動機を高めたか。
老獪や熟達といった形容は、彼女の童顔とニコニコした表情に中和されてしまう。だが経験を積み重ね、チームメートを信頼し、Wリーグ連覇を成し遂げた町田というPGが円熟の境地にあるのは間違いない。
そして2度目の優勝は、彼女を日本女子バスケットボール史における最高の司令塔のひとりだという称号を確固たるものにした。
著者プロフィール
永塚和志 (ながつか・かずし)
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。
Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、 2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。 他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験 もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社) があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・ 篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社) 等の取材構成にも関わっている。
町田瑠唯×林咲希「スマイル対談フォト&真剣プレー集」
2 / 2