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富永啓生が選んだ「日本代表経由NBA入り」の道筋 それはパリ五輪への断固たる決意の表われ (3ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka

【すべてにおいて大事なのは「信じること」】

「来年の自分の所属先は決まっていないのですが、パリ五輪で活躍をして(NBAの)チームからオファーをいただけたらいいなと思っています」

 ネブラスカ大の最後の2年は主力となったこともあって、富永の大学周辺での人気は高まったが、同大が出場した3月のNCAAトーナメントの直前など、彼は注目選手として紹介されている。

 彼の卓越したシューティング能力だけで、そのような扱いをされたわけではない。シュートを決めてジェスチャーを交えながら興奮を体で表現する富永を、現地のメディアは「Animated(活気のある)」「Larger than life figure(とても魅力的な存在)」といったフレーズを使って紹介した。

 元NFL選手でスポーツ局ESPN『ザ・パット・マカフィー・ショウ』のホスト、パット・マカフィー氏はエキセントリックかつ歯に衣着せぬ物言いで有名だが、その彼は以下のように富永のことを熱く語っていた。

「富永啓生は大学バスケットボールで最も刺激的なプレーをする選手かもしれない。なぜこの選手がビッグ10ネットワーク(ネブラスカ大が所属する大学リーグ専門の放送局)だけでしか見られないんだ。全国放送で映すべきだろう」

 その後、富永はNCAAトーナメントの終盤に行なわれた大学オールスターゲームに招待され、3ポイントコンテストで優勝。その名は、さらにアメリカの人々の脳裏に刻まれた。

 富永は2022-23シーズン後にもNBAインディアナ・ペイサーズのワークアウトに参加(のちにNBAドラフトへのエントリーを撤回しネブラスカ大でもう1年プレーすることを選択)しているが、今年の3チームでのワークアウトではより進化したところを見せられたという。3チームの関係者からはとりわけオフェンス面で「いい動きをしていた」と好感触を得られた一方で、「ディフェンスでもうちょっとレベルアップができたらもっとよくなる」と、忌憚のない言葉を受け取ったという。

 ホーバスHCは2021年の東京五輪で日本女子代表を銀メダルに、そして同男子代表を昨年のW杯で先述の成功に導いているが、いずれの場合も彼の指導の下、選手たちが自分たちのバスケットボールと力量を「心から信じる」という気持ちがあったからこその成果だった。

 オリンピックでの活躍によってNBA入りの機会を広げようと目論む富永にとっても「心から信じる」気持ちは、失ってはいけないものだ。

「代表活動から学ぶことはたくさんありました。信じることは代表では特に言われていることで、ただそれは代表に限らず、すべてのことに対して一番大事なことだと思います」

 富永はそう言いながら、自身の選ぶ道に疑う気持ちを持たない決意を示した。

 子どもの頃から憧れてきたNBA入りを、現実的に考えられるところまで来た富永。その扉は彼にとって薄いものではない。だが、日本代表の一員としてパリオリンピックのコートでその才能を爆発させてNBA入りを実現させるという道筋を、頭のなかに描いている。

著者プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

写真しゅ〜(と) バスケットボール公式チア『AKATSUKI VENUS』

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