富永啓生が選んだ「日本代表経由NBA入り」の道筋 それはパリ五輪への断固たる決意の表われ (2ページ目)
【日本代表で描く自らの履歴書】
代わりに、富永の頭のなかにあるNBA入りへの別の道筋は、こうだ。
日本代表で、パリ五輪で、活躍すること――。
富永曰く、NBAのワークアウトには参加し、この時期から代表に合流することは「もともと、決めていた」とのことだ。
この決断を「自分の意思で」下したという富永は、「代表に対する思いも強い」と話している。
富永が言う。
「去年のW杯でパリの切符を掴んだ熱狂、興奮は終わってからも、結構、心に残っていました」
しかしこうなると、限られた試合数のパリ五輪で富永は高いレベルのパフォーマンスを披露しなければならない。
日本が自力でオリンピックへの切符を手にする躍進を果たした昨夏のW杯。富永はチーム4位の1試合平均11.4得点を挙げ、3Pの成功率は37.5%と高確率だった。だが、ドイツ、オーストラリアというNBA選手を数多く抱える世界のトップレベルのチームとの対戦では、得点は計13点(平均6.5)で、計12本放った3Pはわずか1本しか決められていない。
日本(世界ランキング26位)はパリ五輪の予選ラウンドの初戦で、再びドイツ(同3位、2023年W杯優勝国)と当たり、次いで開催国・フランス(同9位)、世界最終予選ラトビア会場勝者と対戦する。すべて強敵ばかりとの試合となるが、ここを勝ち抜き、決勝ラウンド進出という高い目標を掲げる日本にとって、富永という「飛び道具」の調子がひとつの鍵になると言っても差し支えはあるまい。
サマーリーグなどに富永が出場しないことについて、まったく理解不可能というわけでもない。2019年にダラス・マーベリックスの一員としてサマーリーグに参戦した馬場などは当時、「もう少しボールがもらえれば」と漏らしながら、そこで己の力量を十全に出しきることの難しさを語っている。サマーリーグはNBAでの定位置を獲ろうと自身の力量を必至に示そうとする選手たちが集まるため、選手のタイプによってはパスが回ってこないことも起こり得る。そのような環境下では自身のよさを見せられないと、富永は考えたか。
また、渡邊のように即、NBAのコートに立つのではなくNBAの下部組織・Gリーグでプレー(渡邊の場合はNBAとGリーグの両方でプレーできる「2ウェイ契約」)し、そこからNBA入りの道筋を視野に入れるというのも、現実的な可能性として考えているだろう。
それに比べて、日本代表における富永の実力はトム・ホーバスHC以下、すべての選手たちがわかっていると言っていい。そのうえ、「ファストペース(fast pace)が好きだ」という彼にとって、速いテンポで3Pをどんどん打てる現在の日本代表のほうが、より力を発揮しやすいと言えるかもしれない。
オリンピックという強豪ばかりの12チームのみが出場する舞台でのパフォーマンスこそが、自身の「履歴書」になる――。富永の視線はそこに定まったといっていい。
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