広島ドラゴンフライズ球団社長・浦伸嘉氏が語る初優勝に至るまでの背景「重要なのは現場とフロントが両輪で回っていけるかどうか」

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka

広島ドラゴンフライズは球団一丸でBリーグの頂点に photo by B.LEAGUE広島ドラゴンフライズは球団一丸でBリーグの頂点に photo by B.LEAGUEこの記事に関連する写真を見る

 チーム創設10年目、BリーグではB2からB1に昇格したチームとして初となるリーグ制覇を果たした広島ドラゴンフライズ。その勝因はコート上の選手、コーチたちのパフォーマンスによるものだけではない。スポーツビジネスの観点から地元・広島に根ざすための地道な取り組み、メディア戦略を主とした広報戦略等を並行して行なった成果である。

 広島はいかにしてBリーグの頂点に立ったのか。2016年から球団社長を務める浦伸嘉氏に、チーム運営と経営についてうかがった。

広島ドラゴンフライズ初優勝の背景 後編

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【地道な努力で地元での認知度をアップ】

 広島の球団のなかにも、ここまで早くリーグの頂点に立つことができると考えていなかった者もいた。

 2016年から球団社長を務める、浦伸嘉氏だ。チーム創設から3年目。浦氏は35歳の時にトップに就任しているが、ファイナル進出についてシリーズ前には「できすぎ」と話した。

 浦自身も元はプロ選手として活動してきたが、「できすぎ」という口調は、実に落ち着いたものだった。

 なぜか。それは経営者として、プロ野球の広島カープやJリーグのサンフレッチェ広島人気の高い地域で、ドラゴンフライズの存在を定着させ、常に発展をさせていかねばならないという責務を感じているからに違いない。

 広島県は「王国」と呼ばれるほどスポーツが盛んな地域ではあるものの、10年前にドラゴンフライズができてすぐに認知され、人気が高まったかと言えば、まるでそうではなかった。

 設立当初は、現役時代に「ミスター・バスケットボール」と呼ばれるほど日本を代表する人気選手だった佐古賢一氏(現・シーホース三河シニアプロデューサー)をヘッドコーチに据え、日本代表のビッグマン、竹内公輔(現・宇都宮ブレックス)を獲得しているが、人気が高まったかと言えばそうはならなかった。

 当時はまだ、競技面さえ強化していればうまくいくという考え方が、広島だけでなく、日本のバスケットボール界に根強く浸透していた。だからこそ「人気の向上につながっていなかった」と、広島市出身の浦氏は回顧する。

「やっぱり僕らがやるべきことは、今回(ファイナル)もそうですが、興行なんですよね。お客さんが楽しむという目線がないといけないのに、それまでのバスケットボールって競技さえよければ人が来るんじゃないかという考えだった。日本一の選手がいても、それをプロモーションして伝えていかないと価値も伝わらないですよね」

 そこで力を入れたことのひとつが、メディア戦略だ。在広島のテレビ局や新聞社と密にコミュニケーションを取ることで、チームをより頻繁に報じてもらうようになった。長いシーズンではメディアがポツリ、ポツリとしか来ないチームもあるが、広島では常に複数の記者やカメラマンが訪れるという。シーズンのホーム開幕戦では10〜20社が取材に訪れるといい、今回のCSでもクオーターファイナルやセミファイナルでは広島のメディアのほうが多かったなどとも聞き及ぶ。

 細かい話で言えば、NHKとのコミュニケーションも大事にしてきた。公共放送のNHKは、スポンサー等の意向に放映の有無が左右される側面のある民放とは違い、地元放送局が熱心に報じてくれる場合もあるからだ。また、民放の複数の情報番組にチームの顔的存在で、今シーズンをもって引退となった朝山正悟をレギュラー、準レギュラーといった形で出演させてもいる。

 数年前の話だが、某首都圏のチームの地元での認知度に関する資料を公表したことがあったが、その率は低かった。浦氏はドラゴンフライズの広島での認知度は「60%は超えていると思います。もしかしたら、もっと知られているかもしれません」と、手応えを語った。

「テレビ中継の回数自体も他のクラブよりも多いですし、メディアに出る『分数』からすれば、もしかしたら日本一多いかもしれないです」

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プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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