言葉の魔術師ホーバスHCはアメとムチの使い分けが絶妙。活躍した選手に「褒めないよ」と言ったワケ (2ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka
  • photo by Nikkan sports/AFLO

選手を「快適な空間」から出す

 こうしたホーバスHCの姿勢は、「競争こそが選手を成長させる」「練習で私のプレッシャーに耐えられないようでは、大舞台の試合で力を発揮することなどできない」といった信念からくるものだ。

 怒るにしても、褒めるにしても、気合を入れるにしても、日本在住歴が長く、日本語に堪能なホーバスHCが直接語りかけて、選手たちの胸に言葉を「響かせられる」ことがより効果を生む。

 昨年11月の、ホーバスHC体制初の日本男子代表候補合宿の際、自身もバイリンガルであるシェーファーアヴィ幸樹(シーホース三河)は「トムさんが日本語で直接、しゃべることができるのは正直、大きい」と話していた。

「海外からのコーチとなると通訳を介すことになりますが、そうなるとどうしても選手たちの受け取り方も違ってくるので、ミスコミュニケーションも多くなります。直接話してくれると共通理解が進むので、そこはすごく大きいと思います」(シェーファー)

 昨年6月。日本女子代表はポルトガル代表を相手に3試合の強化試合に臨んだ。コロナの影響で海外チームと練習試合ができていなかった日本は、東京五輪直前ながら急ピッチでチームを仕上げる必要があった。だが、ポルトガルという強豪とは言えない相手に苦戦する様に、周囲は不安を覚えた。

 当然ながら、ホーバスHCは自らの言葉で選手たちの頬を張って、目を覚まさせた。彼の直截的な言葉を思い出す。

 シリーズの初戦。得意のスリーポイントシュートを打てなかった林咲希を、ホーバスHCは「彼女の仕事はシュートを落としても打ち続けること。それができないなら使わない。ほかにもシュートを打てる選手はいる」と厳しい口調で評した。しかし、これに発奮した林は次の試合からシュートを打つ回数が増え、五輪本番では「ここぞ」という場面で貴重な何度もスリーポイントを決めて、銀メダル獲得に大きく寄与したのだ。

 競わせ、選手の尻を叩いて、成長を促す。ホーバスHCはよく「選手をコンフォートゾーン(快適な空間)から出さねばならない」と言う。それは心地よく、気持ちよさを感じながらプレーするばかりではうまくならない、という意味だ。ホーバスHCの指導法の根幹には、そういったものがある。

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