言葉の魔術師ホーバスHCはアメとムチの使い分けが絶妙。活躍した選手に「褒めないよ」と言ったワケ

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka
  • photo by Nikkan sports/AFLO

 東京五輪後の日本バスケットボール界で、最も注目を集める人物のひとりがトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)だ。昨夏の東京五輪で日本女子代表チームを史上初の銀メダルに導いて以来、時の人となっているが、今は男子代表の指揮官として新たな挑戦をしている。

 女子と比べて日本男子代表の世界的位置づけは低く(現在世界ランク37位)、ホーバスHCが果たして女子と同様に男子代表を世界と伍するチームにすることができるか、現段階ではまだ何とも言いがたい。

 しかし、女子代表での実績から、彼への期待値は当然高い。日本協会の東野智弥・技術委員会委員長は昨秋のホーバスHCの男子代表就任会見で同氏を「言葉の魔術師」と表現し、チームを高みへ連れて行ってくれるだろうと信頼を寄せるコメントをした。

ホーバスHCと選手との距離はどんどん近づいているホーバスHCと選手との距離はどんどん近づいているこの記事に関連する写真を見る 実に当を得た表現ではないかと思う。東京五輪では100以上のフォーメーションを準備して臨むなど、戦術面でも引き出しの多いホーバスHCだが、一方で「気持ち」の部分を非常に大切にする人でもあり、選手たちのやる気を上げるため、巧みに言葉を使い分けることもまた特徴だ。

 女子代表の時で言えば、2017年の指揮官就任後にまず行なったことは、選手たちに金メダル獲得という、その時はとても無理だと思われていた大目標を打ち立てた。

 重要なのは、ホーバスHCが「金メダルを目指すぞ」と選手たちに無理やり信じさせたのではなく、選手たちが心からそれを信じるに至ったことだ。その境地に至ることができたのは、彼の言葉を使った巧みな心理の操縦術あってのことだったはずだ。

 東京五輪も含めて、試合で我々が見るホーバスHCの姿は「鬼軍曹」だ。同五輪では同じミスを繰り返したり判断ミスをした選手には、容赦なく「集中して!」などの言葉を大声で浴びせた。また、タイムアウトの際には「これはうちのバスケじゃないですよ!」とチーム全体を激しく鼓舞した。無観客のアリーナに響いた彼の怒号は、テレビ中継からでもわかったほどだ。

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