女子バスケ・渡嘉敷来夢が悔しかった「五輪絶望」の記事。今の原動力は「銀メダリストに負けたくない」

  • 小永吉陽子●取材・文 text&photo by Konagayoshi Yoko

渡嘉敷来夢インタビュー

 東京五輪で銀メダルへと躍進した日本の女子バスケットボール。しかしその舞台にエース・渡嘉敷来夢(ENEOS)の姿はなかった。2020年12月、皇后杯の準々決勝において、右膝前十字靭帯断裂の大ケガを負ったからだ。それから約10カ月のリハビリを経て、昨年10月にWリーグ開幕戦で完全復活した姿を見せた。

 今年2月にはワールドカップ予選にて日本代表への復帰も果たした。東京五輪時にはなかった193cmの高さを持つエースの復活は日本に何をもたらすのか。そして「パリでメダル」と公言する渡嘉敷の原動力になっているものは――。

2年ぶりの日本代表は刺激的で楽しかった

今年2月のW杯予選で日本代表に復帰した渡嘉敷来夢 ©︎FIBA今年2月のW杯予選で日本代表に復帰した渡嘉敷来夢 ©︎FIBA――2年ぶりに日本代表に復帰した感想は?

「すごくうれしかったですし、世界のトップレベルの選手と対戦できて刺激的で楽しかったです。私にとって国際大会は自分よりサイズのある選手や技術がある選手と一緒のコートに立てる舞台なので、燃えました」

――カナダ戦は延長戦を制し、ボスニア・ヘルツェゴビナには逆転負けで1勝1敗。自身の出来はどうでしたか?

「カナダ戦は得点やリバウンドに絡むことができたので、『復帰戦だし、こんなものかな』という手応えがありました。ボスニア戦は、(2021年のWNBAでMVPを獲得した)ジョンケル・ジョーンズ選手とマッチアップして、前半はわりと抑えられたし、フラストレーションを溜めさせることはできたと思うんですけど、後半はディフェンスが徹底できなくて彼女を乗せてしまいました。試合後にはリツさん(髙田真希/デンソー)とディフェンスで共通理解を確認しあえたので、次に対戦することがあれば、もっと抑えられると思います。

 オフェンスに関しては無得点だったんですけど、個人的にはダメだったとも思えないレベルなんです。もっとボールを持って仕掛けていれば、無得点だったことで落ち込んだと思うのですが、自分の力が出せなかったというより、周りを生かそうと思いすぎてしまったので、うまくいかなかったのかもしれません。それも今の自分の力だと受け止めています」

――東京五輪後にトム・ホーバスHCから恩塚亨HCになり、戦略的に個人の判断に任される場面が増えてきました。チームプレーが徹底できなかったのは、各自がまだ迷いがあるからでしょうか?

「そうなんです。今までとは違うまったく新しいバスケットをしている感じです。新しいことだらけで、リズムをつかむことに一生懸命になりすぎていて、自分のパフォーマンスを出せなかったのは悔しいところです」

――どんなところが新しいバスケなのでしょうか。

「たとえば、アウトサイドの攻撃が続いた時に、ここで自分がペイントエリアに入って得点をしたほうがいいと思う場面がありました。でも、まだチームの呼吸が合っていないせいか、『自分がインサイドに入ったらドライブする選手の邪魔をしてしまうかも』と迷ってしまったんですね。ディフェンスではヘルプがくるかどうかもわからないから、それによって間合いの詰め方も迷ってしまって、徹底できていませんでした。ただ、恩塚さんは選手の意見を尊重してくれるので、感じたことはすべて試合後に伝えました。そうした課題を次にフィードバックしていけば、もっといいチームになれると思います」

――ホーバスHCの時代も試行錯誤はありました。効率のいい3ポイントを求めるバスケに転換していた2019年のアジアカップで渡嘉敷選手は、得意のロングツー(3ポイントより一歩手前の距離で打つシュート)が打てないチームルールから迷いが見えました。けれど2020年2月のオリンピック予選では得点面で向上していました。やはり新しいシステムには慣れが必要ですか? 恩塚HCのシステムでは得意のロングツーは打てるのでしょうか?

「トムがヘッドコーチの時は一時期、躊躇してしまって自分のシュートが打てなくなったこともありました。でもその頃から3ポイントの練習はずっとしていたので、システムに慣れてきたら徐々に打てるようになりました。今もチャンスがあったら3ポイントを打てるように練習をしています。でもやっぱり、自分はロングツーに自信があるので、そこは自信を持って打っていきたいです」

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