言葉の魔術師ホーバスHCはアメとムチの使い分けが絶妙。活躍した選手に「褒めないよ」と言ったワケ (3ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka
  • photo by Nikkan sports/AFLO

「なんで打たなかったの?」

 練習や試合で鬼の顔を持つホーバスHCだが、しかし、それ以外では人が変わったかのように柔和な人物へと「変身」する。

 男子代表は2月下旬、沖縄で行なわれたワールドカップ・アジア地区予選Window2を戦った。ホーバスHC体制以来、チームに選出されている寺嶋良は、当初抱いていた同氏への印象が少しだけ違っていたことを予選直前の合宿中に明かしている。

「いや、優しいですね」

 ホーバスHCも男子代表に来てから時間が経ち、選手たちとの関係性もできてきて徐々に厳しい言葉も増えてきているのでは、と問うと、寺嶋はこう返してきた。

「ずっと優しいです。練習以外のプライベートなところでは本当にずっと優しくて、なんか、イメージと違った人でしたね。本当に優しいです」

 思えば、ホーバスHCがあれだけ厳格と言われながら男女代表の選手らから「トムさん」と呼ばれるのは、寺嶋の言う「優しさ」や包容力があるからであろうし(ホーバスHCは女子代表の選手たちを「娘のような存在」としている)、選手たちも自分たちを成長させ、ひいてはチーム力を底上げするためにコート上でとことん厳しく接してくることをよく理解しているからだろう。

 寺嶋はこんな話も披露してくれた。昨年9月のアジア競技大会(中国・杭州開催)へ向けた日本代表候補合宿にも参加した寺嶋は、直近のリーグ戦でキャリアハイ・タイとなる25得点を挙げた。だが、試合を見ていたホーバスHCが彼にかけた言葉は、「よくやった」ではなかったというのだ。

「トムさんには『私は褒めないよ』というようなことを言われました。その試合の僕は、第4クォーターにほとんどシュートを打たなかったんです。それに対してトムさんから『なんで打たなかったの、ずっと打ち続けて30点、40点取らなきゃいけないよ』と言われたことがすごく印象に残っています。周りを生かすことももちろん大事ですけど、代表ではもっとアグレッシブに取っていかないといけないよ、と」

 このあたりのホーバスHCの「アメとムチ」の使い分けは絶妙だ。

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