検索

F1王者争いは「究極の精神戦」中野信治がフェルスタッペンvsノリスの勝負を分けたポイントを解説 (4ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi

【来シーズンはノリスに勝機あり?】

 ただ、来シーズンに関しては状況が異なります。このオフから開幕戦までの間、ノリスとマクラーレンはしっかりと準備ができます。人間の根本的な性格は変わらないですが、準備していけば、ノリスは今年よりは少しラクに戦えると思います。

 あとは慣れですよね。フェルスタッペンのような相手との勝負に慣れていなかったので、それに対抗するためにアグレッシブにいこうとしてミスを犯すケースがどうしてもありました。結局のところ、マクラーレンは自分たちの時間軸とかけ離れたスピードでマシンが速くなってしまい、ドライバーとチームも戸惑ってしまったんです。そもそも彼らは今年、自分たちがチャンピオン争いをするとは思っていなかったはず。

 だから戦略的なミスをしたり、ノリスとチームメイトのオスカー・ピアストリのどちらを優先するのかという点でもちょっと優柔不断なところもあったりしました。その結果、かなりのポイントを失いましたが、レースを重ねるごとに少しずつ修正し、コンストラクターズ・チャンピオンに輝きました。

 マクラーレンのクルマのポテンシャルを考えると、来シーズンはノリスがタイトル争いの中心になるはずです。レッドブルはマシンが急に速くなるとは思えませんので、フェルスタッペンにとっては厳しいシーズンになるかもしれません。

 それでもノリスはフェルスタッペンを警戒しているでしょう。同じドライバーとしてノリスはフェルスタッペンの強さを誰よりもわかっているからです。今年、クルマの性能が明らかにいい状態でも、タフな戦いを強いられた。もし同じクルマに乗っていたとしたら、もっと厳しい勝負になっていただろう......そうノリスは心のなかで思っていると思っているでしょうね。

 チームメイトのピアストリも速いですが、まだスピードセンスという部分ではノリスに及ばないところがあります。今シーズンもずっと走行データを見てきましたが、ピアストリはノリスのすごく近いところには来ているのですが、ブレーキの使い方や高速コーナーでのマシンの走らせ方などで、まだノリスに分があります。

 コース特性によってはピアストリのドライビングのほうが合うところもありますが、総合的にはノリスのほうがまだ上だなと思わせるようなデータが多い。それは、もしかしたらマクラーレンのマシンがノリスのドライビングスタイルに寄っていることが原因なのかもしれません。

 もしピアストリが来シーズン、マシンとピタッと合うドライビングができ、ノリスに匹敵するスピードを手に入れた時は、一気にチャンピオン争いに名乗りを上げてくると思います。

 そうなったらハミルトンとロズベルグがコンビを組んでいた時代のメルセデスのように、チーム内のバトルは相当激しくなるでしょう。マクラーレンとしてはうれしい反面、さらにドライバーのハンドリングが相当難しくなっていくと思います。

中編につづく>>

【プロフィール】
中野信治 なかの・しんじ 
1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、ホンダ・レーシングスクール鈴鹿の副校長として、F1参戦を目指す岩佐歩夢をはじめ、国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当。

著者プロフィール

  • 川原田 剛

    川原田 剛 (かわらだ・つよし)

    1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。

フォトギャラリーを見る

4 / 4

キーワード

このページのトップに戻る