角田裕毅「伝統のモナコ」で天国から地獄...完璧な仕事をやってのけたのに、なぜ9位のポジションをあっさり明け渡したのか? (4ページ目)
【僕をクラッシュさせる気か!?】
さらに間の悪いことに、後方のノリスがインターミディエイトに履きかえてから、フェルスタッペンを上回るハイペースで追いかけてきた。
「君が苦しいなかで最大限やっているのはわかるけど、ブレーキングでペースを見つける必要がある」
レースエンジニアのマッティア・スピニは、角田のブレーキ温度が失われているのをテレメトリーでリアルタイムに見て取り、フリー走行や予選でも同等の問題を抱えていたこともわかっていたからこそ、ハードブレーキングしか熱を入れる方法がないという意味でそう伝えた。
「このブレーキは最悪だ。これ以上プッシュしろって、僕をクラッシュさせる気か!?」
フラストレーションを高まらせる角田に対して、スピニはブレーキバランスを大きく前に寄せてブレーキングをプッシュできるようアドバイスもした。だが、ノリスとオスカー・ピアストリ(マクラーレン)にメインストレートで並ばれるとターン1に向けてブレーキ競争を挑める状況にはなく、あっさりとポジションを明け渡すしかなかった。
そしてブレーキングをトライした結果、ターン5で止まりきれずランオフエリアに飛び出し、角田は大きく順位を落として挽回の望みも失われた。
「雨自体は問題なかったんですけど、とにかくブレーキです。問題はそれだけです。ただ単に温度が上がっていかなくて、まったく効かなかったですね。
今週末ずっと同じ問題に悩まされ続けてきたんですけど、それが雨によって悪化してしまったような感じです。プッシュすることで結果的にああやって、あわやウォールにクラッシュという状態になって......」
完璧な仕事でほぼ手中に収めたはずの殊勲の9位は、ほんのわずかな綻(ほころ)びからこぼれ落ちてしまった。
しかし、伝統のモナコで角田が見せた走りは本物だった。トラブルの原因をしっかりと究明すれば、自ずと次へとつながっていく。このモナコで見せた走りを自信に前を向けば、これから先も続くであろう厳しい戦いを十分に勝ち抜いていけるはずだ。
著者プロフィール
米家峰起 (よねや・みねおき)
F1解説者。 1981年1月31日生まれ、兵庫県出身。F1雑誌の編集者からフリーランスとなり2009年にF1全戦取材を開始、F1取材歴14年。各種媒体に執筆、フジテレビNEXTやYouTube『F1LIFE channel』での解説を務める。
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