ホンダのモンスターマシンを操った悲運の天才。ダニ・ペドロサの功績 (5ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 今までにも、彼が痛々しいケガを抱えながら走ってきた姿は何度も見てきた。だが、このレース後は、見るからに疲れ切った表情だった。ひょっとしたら、今までの経験の中でも最も厳しいレースだったのではないか。すでにチームシャツに着替えて手首をアイシングするペドロサにそう訊ねてみたところ、素直にうなずいた。

「もちろん、今日は最も苛酷なレースの一つだった。(走れるかどうかを)金曜にトライしてみて、その時の調子のままで3日間走り切れるとは思っていなかったけど、それにしても厳しかった。完全に消耗し切ったよ。今はとにかく、腫れと痛みに対処しながら、次のレースに向けて回復に備えたい」

 その次戦以降も、思いどおりのパフォーマンスを発揮できずに苦戦を強いられた。手首の負傷がおおむね癒えた後も成績不振が続いた。MotoGPクラス全体の中で特に軽量な彼が、タイヤにしっかりと加重してグリップを稼ぐという面で不利を強いられがちだったことは指摘しておいてもいいだろう。

 そして、前半戦を締めくくる第9戦ドイツGPで、ペドロサはその年限りの引退を発表した。

 大勢の関係者や取材陣が詰めかけた引退発表会場の片隅には、04年の250cc時代からともにグランプリを戦ってきた盟友、青山博一の姿があった。青山はペドロサよりも一足先に現役活動を退き、現在はMoto2とMoto3のホンダ・チーム・アジアの監督を務めている。

「会見をすると聞いたので、『もしからしたら......』と思って来てみたんですが、やはり引退発表でしたね」

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