ホンダF1今季2勝目。ガスリーが表彰台の中央で亡き友に捧げる

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by Boozy

◆「今季初勝利。レッドブル・ホンダとフェルスタッペンが覆したF1の常識」はこちら>>>

 レースというのは、すべてが技術的・理論的に説明できるはずなのに、時に理屈で説明できないような驚くべきことが起きる。だからこそ、そこに感動がある。

 アルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーがここで初優勝を挙げるなど、誰が想像できただろうか。王者メルセデスAMGより1秒遅いマシンで勝つなど、理屈のうえではあり得ない。しかし、それをやってのけた。

イタリアGPでF1初優勝を果たしたピエール・ガスリーイタリアGPでF1初優勝を果たしたピエール・ガスリー メインストレートの上空に浮かぶモンツァの表彰台の中央に立ったガスリーは、シャンパンシャワーを楽しんだあとにそこへ腰掛け、ひとりでしばらくぼうっと空を見詰めていた。

「あそこに座っていると、いろんな感情が心の中に浮かんできた。家族、友人、兄弟、そしてここまで僕を支え、プッシュし続けてきてくれた人たち。そういう人たち、すべての人のことを思い浮かべていたんだ」

 そのなかで、ひと際大きかったのが、アントワーヌ・ユベールだろう。

 1年前のスパ・フランコルシャンで命を落とした彼は、ガスリーにとって友人という単純な言葉では表せない大きな存在だった。

「カートを始めた9歳の時から彼と一緒に走って来て、13歳から18歳まで同じ学校の同じクラスのルームメイトとして朝7時半から夜10時までずっと一緒だったんだ。レースも、トレーニングも、全部一緒だった。

 僕らはお互いにプッシュしあって成長してきた。トレーニングだって、彼が15回なら僕は16回、そしたら彼が17回やるっていうふうにね。僕をアスリートとして成長させてくれたのは彼であり、彼がいなければ今の僕はいなかった」

 昨年のベルギーGP直前にレッドブルから突然の降格を言い渡されたガスリーは、公然とチーム批判をするなど荒れていた。しかし、その週末にユベールが悲運の死を遂げたことで、ガスリーは大きなことに気づかされた。

「君は人生というのは、僕らが思っているよりもずっと短いものだということを僕に教えてくれた。だから生きている間は、可能なかぎり楽しむべきなのだということを」

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