検索

レアル・マドリードの指揮官アンチェロッティの去就は? 「バランス重視」の姿勢はブラジル代表監督にうってつけ (3ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo

【並外れた戦術眼と指導力】

 一方、アンチェロッティのほうはトレーニングもすべてオープンだったし(「本当は非公開にしたいんだけど」とは言っていたが)、嫌な顔もしないで次々とインタビューを受けていた。もっとも、発言の内容に新鮮さは感じられなかったので、地元記者のなかには「死にそうに退屈な会見ばかりだぜ」と陰口をたたく者もいたが......。

 選手たちにも、アンチェロッティはフレンドリーに接していた。

 自身が自動車を買い換えようとしていたらしく、駐車場で選手たちが乗りつけてくる高級車を見て「おまえの車は、いくらしたんだ?」としきりに声をかけていた。

 アンチェロッティは試合中も、練習中も、選手に対して細かい指示を送るわけではない......。むしろ、選手たちの動きをじっと観察している時間が長いようだった。

 モウリーニョやジョゼップ・グアルディオラのように、「戦術ありき」で選手たちに細かな指示を送り、彼らを自身の意のままに動かすタイプの監督もいる。彼らは、試合のことを監督同士のチェスであるかのように考えているのだろう。

 一方で、選手たちの意見を尊重し、それぞれのスタイルのままプレーさせ、彼らが気持ちよくプレーできるようにすることでチームを作る監督もいる。アンチェロッティは、まさにこのタイプなのだ。

 そんな、40歳のアンチェロッティを見て、僕は失礼ながら「この人は、将来どれだけの監督になれるのだろうか?」といささか心配だった。しかし、彼は僕の期待を大きく上回る偉大な監督となったようだ。

 アンチェロッティは、セリエAを振り出しに、プレミアリーグでも、リーグアンでも、ブンデスリーガでもタイトルを獲得し、そしてレアル・マドリードでも成功を収めた。

 レアル・マドリードの選手と言えば、ほぼ全員が世界のスーパースターたちだから、彼らを使いこなすのは容易な仕事ではない。だが、アンチェロッティはまさに選手たちに気持ちよくプレーさせることによって、スター軍団のマネジメントに成功したのだ。

 もちろん、そのためには選手たちの個性やポテンシャルを見極め、彼らが気持ちよくプレーできるように配置し、コミュニケーションを取り続けなければならないのだから、並外れた戦術眼や指導力がなければできない仕事である。

 選手としても、監督としても、バランスを重視するのがアンチェロッティの真骨頂と言っていいのかもしれない。

3 / 4

キーワード

このページのトップに戻る