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プレミアリーグで光ったブラジルらしさ ウルブスのマテウス・クーニャが繰り出した「マランドラージェン」って何だ? (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【独特のずれで抜き去る】

 クーニャがアストン・ビラ戦でみせたドリブルは、ボールと体の動きが逆になっているところがポイントだ。

 通常、フェイントはボールと体が一緒に動く。イングランドの伝説的ウイングで、フェイントにその名がついているスタンレー・マシューズの有名なモーションも、ボールを左へ動かしながら体も左へ、その後にボールとともに体も右へ動く。シザーズはボールを動かさないで足でボールをまたぐが、抜く時はボールと体は一緒である。

 ところが、クーニャの場合はボールと体が別の方向へ動いてから、体がボールに追いついていく形で抜いている。そこにボールがないのに、ボールをまたぐような動き方をしていて、この不協和音的なずれが面白く、ブラジル人独特でもあるわけだ。

 右足裏でボールを左方向へ引きながら、左足で外から内へまたいでボールを左方向へ流していく「オコチャ・ダンス」で有名なジェイジェイ・オコチャはナイジェリア人だが、ブラジル風だったかもしれない。ボールと体は逆方向だ。ただ、ブラジル人のそれと比べると若干、力業(ちからわざ)感はある。ブラジリアンはもう少しさりげないイメージだ。

 ブラジルの選手も、かつてのようにひと目でブラジリアンとはわからなくなってきた。ヨーロッパナイズされていて、体格も大きく、プレーぶりも欧州人と変わらないタイプが多くなった。それでも時折、ブラジルらしさを見せてくれる。

 もとは英国のフットボールがブラジルに伝えられたのだが、ブラジルでいつのまにか別の球技に変わった。ブラジルのフチボウは英国のフットボールとは似て非なるものと言っていいくらい、技術も考え方も何もかも違う。現在は互いに近くなってきたけれども同じにはならないだろうし、なってほしくないとも思う。

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著者プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

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