プレミアリーグで光ったブラジルらしさ ウルブスのマテウス・クーニャが繰り出した「マランドラージェン」って何だ? (2ページ目)
【状況を一変させるインスピレーション】
マランドラージェンはエラシコのようなサッカーの技の名前ではない。意味はマリーシア(ずる賢さ)とほぼ同じ。
マランドラージェンはマランドロから来ているようで、マランドロ(malandro)はmal=悪、andro=男だから、悪人とか悪漢ということになるわけだが、そこまで悪い意味で使われていない。マランドロのステレオタイプは、カーニバルによく登場する白スーツ、白帽子で踊る伊達男である。
マランドロには金がなく、粋なヤサ男だがダメ男のイメージらしい。大それた悪事を働く雰囲気は皆無で、せいぜい結婚詐欺くらいだろうか。その立ち姿はステージ上のマイケル・ジャクソンを思い浮かべてもらえばいいかもしれない。
ブラジルでは「腰技がある人」という言い方もあるそうで、不利な状況を有利に変化させられる人を指す。そのへんがいろいろ重なって、ある種のフェイトモーションをマランドラージェンと呼ぶのかもしれない。
どういうのがマランドラージェンで、ジンガで、マリーシアなのかは正直よくわからないのだが、これらがブラジルサッカーの重要な要素なのは間違いない。
よくわからないフェイントモーションから得点したクーニャは、もちろんブラジル人。
ただ、ユース年代はコリチーバでプレーしていたが、プロデビューはスイスのシオンだった。その後もライプツィヒ、ヘルタ・ベルリン(以上ドイツ)、アトレティコ・マドリー(スペイン)、現在のウルブス(イングランド)とずっと欧州。アンダー世代のブラジル代表ではあったが、欧州でキャリアを積んできた。典型的なブラジル選手というより、1990年代以降に急速に増加した欧州移籍に適したタイプのアタッカーと言える。
ブラジルのプレーヤーは欧州人と比べると小柄なタイプがほとんどだったが、大型化したのがロナウド、リバウドの世代から。その後カカー、ロナウジーニョ、アドリアーノなど大型FWが欧州で活躍した。欧州のフィジカルに対抗できる選手が意識的に育てられてきたわけだが、クーニャもその流れにあり、コンタクトを恐れずよく走り、守備も献身的に行なう。それでも咄嗟に繰り出す意外性のあるプレーは、やはりブラジリアンだった。
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