サガン鳥栖監督「面白い監督はいらないなら、潔く去る」 敗れてもぶれないその哲学 (3ページ目)
【最後は選手で決まる。だが...】
――スペクタクルと結果を同時に勝ち取るのは簡単ではありません、たとえばヨハン・クライフとジョゼップ・グアルディオラは同時に成し遂げた人たちですが、ベニート・フローロ、フアン・マヌエル・リージョは優るとも劣らぬ理念を持ちながら常勝ではない。どこにフットボールの真理はあるのでしょう?
「どの監督も探し続けていると思います。"目に見えない勝負の綾"と言うのか、何を改善すれば勝ち続けられるか。究極を言えば、そういう話になると思うんです。考え方、トレーニングなのかもしれないし、時系列でいくと、選手をごっそり変えるとか、いろいろなことがある。
今シーズンで言うと、選手もスタッフもいろいろ変わっているなか、アビスパさんに2回やって2回勝てなかった。でも、これは信じるしかないんですけど、圧倒的に勝てるようになると、僕らに追いつけない。今は僅差の戦いで、『ぎりぎりの戦いができたら勝てるかも』と思わせている。その時点で、僕らの負けなのかもしれません。2、3年前のフロンターレさんは圧倒的強さでしたが、僕らはそこまでいかないといけない」
――強くなるために、妥協はしない。
「圧倒的な力を得る、それはシンプルにグラウンドに立つ選手で決まるんです。その補助として、どういうスタイルで戦うか。確固たる考え方や相手によってシステムを変える柔軟性も必要ですが、やっぱり最後は選手なんですよ。信念もスタイルもなしに、たとえば20点とっているFWを3人、中盤のパス成功率90%のMFを5人、空中戦勝率80%以上のCB、時速32キロ以上のサイドの選手をかき集めて、"今日はこいつでいこうかな"で勝てる。でも信念がない戦いでは、彼らがいなくなった時に何が残るのか」
――世界のフットボールのトレンドも刻一刻と変わっていきます。時代の変化のなかで、監督もどう生きていくのか。
「アップデートはしなければいけません。僕も他の監督さんも、それは変わらない。フットボールの世界では結果が出ないと求められなくなるわけですが、自分が必要とされない、面白い監督はいらない、となったら、潔く去るべきだとも思っています。そこでの"勝負"には身を引く。"そうならないように僕がやらないと"とは思っていますが、周りの意見に合わせるというのはないですね」
(つづく)
Profile
川井健太(かわい・けんた)
1981年6月7日、愛媛県生まれ。現役時代は愛媛FCでプレー。指導者としては環太平洋短期大学部サッカー部監督を皮切りに、愛媛FCレディースヘッドコーチ、日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチ、愛媛FCレディース監督、愛媛FC U‐18監督、愛媛FC監督、モンテディオ山形コーチを経て、2022シーズンからサガン鳥栖監督に就任した。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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