サガン鳥栖は再びJ1の台風の目となれるか 「一から違うものを作っていた」チームが迎えた転機 (2ページ目)
【川井健太監督からのドキリとするアドバイス】
そう語ったのは、昨年末に鳥栖のスポーツダイレクターに就任した小林祐三である。降格の最有力候補だった昨シーズン、川井監督に白羽の矢を立てた功績は大きかった。今シーズンの新戦力である河原、山崎浩介などの獲得にも先んじて食指を動かしていた。
「周囲の反応は予想していました。期待値が変わったんだな、と。ただ正直、ケガ人の続出(開幕直前にもファン・ソッコが離脱するなど)もあって、開幕5連敗もあるかな、と思っていました。大差で負けた試合で打ちひしがれていないし、むしろ勝利した試合に納得していないところもある。"上積み"と言いますけど、違うものを作っている感覚です。新たなチームで、選手個人を駆動させるのは簡単ではありません」
1年目の川井監督はプレーモデルを植えつけた。その仕組みは今もある。しかし、選手が変れば、それ自体も変化するし、適応が必要になる。選手がプレーモデルを起動させられなかったら、仕組みは仕組みでしかない。
そして川井監督の真の力は、仕組みや戦術の先にある。他のJリーグの監督と比較しても、選手からの信望が飛び抜けて厚い。ディテールを見抜く眼力が並外れ、力を引き出させる。
「川井さんは癖を見抜くんです」
今シーズン入団したFW富樫敬真は、ドキリとするアドバイスを受けたという。
「自分は力んだ時に右足をゴールに向かって大きく回す癖があって、それをすぐに指摘され、『シャープに振ればいいから』と言われました。あまり喋る監督ではないだけに、納得感が半端ない。あと、自分はトラップをでかくしないようにしすぎて、置きどころが詰まっていたらしく、『敬真のエンジンだったら、前へ止めても十分に間に合う』と具体的に言ってもらった」
こうしたやりとりの積み重ねが信頼につながるのだろう。信頼関係のなかでこそ、選手は能動的にプレーできる。
何より川井監督自身が、選手に「個人の判断」を求め、促してきた。チームはひとつの枠組みに収まった途端、凡庸になり下がる。究極的に言えば、サッカーはピッチに立つ選手の決断がすべて。選手が覚悟を持って監督の教えを超えられるか、そこにサッカーの創造性の極みはあるのだ。
2 / 3