元レフェリー・家本政明が忘れられない、規格外の外国人Jリーガー。「いつも楽しそう」「まさにバケモノ」な選手たち (5ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by Getty Images

世界レベルのフィジカルコンタクト

フッキ(FW/元東京ヴェルディほか)

 フッキ選手は私がJリーグで一緒に試合をした外国人選手のなかで歴代トップ3に入るくらい忘れられない選手です。特に東京ヴェルディ時代にもっとも記憶に残っているシーンがあります。

 あれは西が丘で行なわれた水戸ホーリーホック戦でした。メインスタンドの左奥側にややDFに有利なボールが出ました。まだボールをDFがコントロールしていない状況で彼が追いついて、DFはまずいと思ってフッキ選手をチャージしにいったんです。

 そうしたら逆にフッキ選手がそのDFをはじき飛ばして、ボールをキープしてカットインからシュートしたんです。結局、ゴールにはならなかったんですけど、観客がものすごく湧いたんですね。

 東京Vのサポーターはもちろん彼のプレーに湧き上がって、水戸側はベンチとサポーターが「ファールだろう!」と猛烈にアピールしたのを覚えています。

 この状況を少し詳しく説明すると、両選手が十分にプレーできる位置で、なおかつニュートラルポジションにボールがありました。そこでDF側が先に体をぶつけにいって、フッキ選手がそれをものともせずに吹き飛ばしたわけです。接触の仕方も正当なものでした。

 あまり日本ではお目にかかれないシーンに、私も思わず「うおぉぉ!」という感じになりながら彼のショルダーチャージを正当なフットボールコンタクトだと認めました。でも、絶対に水戸側はファールをアピールするだろうと思っていました。

 ただ、私はこれこそがフットボールの魅力だし、日本に欠けているところだと思ったので、水戸側の主張を突っぱねたんです。ハーフタイムの時に、東京V側の関係者から、「ああいうのが日本ではファールになってしまうけどなんとかならないのか」と言われたので、「なんとかならないです」と答えました。

「でも今日はなんとかなったじゃないか」と言われたんですけど、「あれはあのタイミングや状況が、十分にフットボールのコンタクトとして認められるものだと私が判断したからです」と話しました。

 もちろん、フッキ選手がいつも正しいわけではないし、レフェリーが間違っていることもあります。でも彼のスピードとパワーは圧倒的な魅力で、東京Vにとってポジティブなものなので続けていったほうがいいですよね、という話をしました。

 ただ結局、彼は日本で相手チームやレフェリーとうまくマッチングはしませんでした。それで「日本はもう無理だから海外へ移籍する」というような記事を目にして、とてもショックを受けました。そう思っていたらポルトガルのポルトで本来の力をいかんなく発揮して、あれよあれよという間にセレソンでも中心選手として活躍するようになりました。

「やっぱり世界は彼のあのプレーを認めるんだ」と。ブラジル代表などでのプレーを見ていると、Jリーグでは確実にファールになるだろうなという場面をよく見かけますが、相手選手も気にしませんし審判も笛を吹きません。

 もちろん、タイミングや接触する部位が悪ければファールになりますが、彼は気性の荒さはあったものの、汚いプレーや無駄な悪さをする選手ではありませんでした。そういう彼の力を最大限に発揮させてあげられなかったのは、非常に申し訳ないというか、もったいなかったなと思う選手でした。

 彼のように技術だけでなく、フィジカル的にも世界トップレベルの高い能力をもった稀有な存在が普通にプレーできる環境がJリーグにも絶対に必要だし、それはフットボールだけでなくリーグの価値と魅力をさらに高めてくれるものだと改めて証明してくれる選手だったと思います。

 ただ、そうした環境を作るためには、選手側に問題があるのか、あるいはJリーグ側に問題があるのか、レフェリー側の認識や対応力に問題があるのか。この3つの視点から考えなければいけないと思っています。いずれにしても彼ら世界のトップレベルで活躍できる選手たちは、Jリーグのレベルアップを考える上で問題を提起してくれる存在だと思いますし、本当に魅力的で大好きな選手でした。

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