中村俊輔、ベンチ外という屈辱の日々。キング・カズ「サッカー、楽しいな」の言葉に勇気をもらった (3ページ目)
【やっぱさ、サッカーってこうだよな】
同大会を最後に、中村は日本代表を引退。マリノスでのプレーに専念し、35歳となった2013年には当時現役最年長でJリーグMVPに輝いた。何度も屈辱を乗り越えることで、中村はサッカー人生を豊かなものにしてきた。
ジュビロで思うようにプレー機会を得られなかった2019年途中、新天地に横浜FCを選んだのは、"生きる伝説"を間近で見たい気持ちが強かった。
「俊輔、サッカー、楽しいな」
三浦知良にかけられたこのシンプルな言葉は、中村を強く前に駆り立てた。
「カズさんは朝早くからストレッチをして、帰るのはチームで最後とか言われるけど、それより"見えない部分"を知りたかった。サッカーに対しての熱量だよね。(川口)能活さんやボンバー(中澤佑二)も見てきたけど、そういう人をもう1回見て、自分に刺激を与えたかった」
50歳を超えて現役を続ける三浦と、中村は横浜FCの"ベンチ組"でチームメイトになった。紅白戦で対峙するのは、もちろんレギュラー組だ。
当時の下平隆宏監督が志向したのは、いわゆる"はめるサッカー"だった。チームの心臓には戦術があり、選手たちの立ち位置は細かく決められている。そうして集団でプレスをかけながら、相手のボールを奪うサッカーが求められた。
対して、サブ組は単なる"相手役"に収まらなかった。中村が相手DFの裏にスルーパスを狙ったかと思えば、三浦は前線から降りてきてボールに触わる。中村が三浦にパスを当てて、もう1度もらって攻撃を組み立てていく。
レギュラー組とは異なる展開をすることで、相手の選手たちに距離感のズレが生じた。サブ組はワンツーのパス交換を面白いように決め、攻勢を増していく。
かたや、立ち位置が細かく決められているレギュラー組は、「きれいに崩したい」という罠に囚われた。そうして横浜FCのサブ組は、レギュラー組に数週間続けて勝利した。
「俊輔、サッカー、楽しいな。やっぱさ、サッカーってこうだよな」
日本サッカーの"キング"にかけられた言葉は、中村にとって特別に響いた。
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