偉大な男トーレスの最終ゲーム。
イニエスタは黄金の輝きで華を添えた (2ページ目)
「君はまだ去っていないのに、すでにさみしい気持ちだ」
イニエスタは親友トーレスとの最後の試合を前に、熱いメッセージを送っていた。気力は満ちていたのだろう。自らのプレーを捧げるように、その本気を見せた。バルセロナでの全盛期を彷彿とさせる圧倒的なプレー水準だった。
「イニエスタは日本で見せた最高の試合で、トーレスの最後を飾った!」
スペインのスポーツ紙『アス』もそう見出しをつけている。
前半22分、イニエスタは自陣で浮いたボールをダイレクトのボレーでロングパス。右サイドを駆ける古橋亨梧に、寸分たがわず合わせている。古橋が戻したボールを田中順也がゴールに決めたが、息を呑むようなプレーだった。
これ以外にも、イニエスタは異次元のプレーを連発した。センターラインから少し敵陣に近づいたところで、何気なく古橋に合わせたミドルパスも極上だった。ゴールにはならなかったが、「無」から「有」を生み出すかのように神がかっていた。また、後ろ向きで受けたパスに、背後から狙われているのを察知。即座に右足の裏を使って弾いて、プレスを回避した。360度、視野が開けているようだった。
イニエスタはすべてを出し尽くした。積極的にボールを受け、下がってゲームメイクし、決定的パスを繰り出し、縦横無尽に動き回っている。その負担は相当なものだったろう。球際の奪い合いで踏み込んだ時だった。左足のもも裏を抑え、そのまま座り込んだ。
前半45分、イニエスタは交代を余儀なくされたが、戦友を惜別するようなプレーだった。この時点で神戸が0-3とリード。ケガのリスクを背負いながら、限界を突破した。
<君の最後は僕が飾る!>
イニエスタの一挙手一投足はそんなメッセージが込められ、同時に偉大なストライカーが歩んできた道のりの壮大さを映していた。
結局、鳥栖は1-6で大敗し、トーレス自身も不発に終わっている。シュートチャンスがなかったわけではない。しかし、枠に入れられなかった。味方のシュートのこぼれ球をエリア内で拾い、フリーでシュートを打つ絶好機でさえ、腰が回らず、大きくバーの上に外した。膝の状態は万全には程遠く、往年の彼からは考えられないフォームだった。
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