偉大な男トーレスの最終ゲーム。イニエスタは黄金の輝きで華を添えた

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

――18年間の選手人生に後悔はありますか?

「何もない」

 フェルナンド・トーレス(サガン鳥栖、35歳)は、落ち着いた声音でそう言い切った。

 現役最後の試合が終わってから、すでに2時間近くが経過していた。トーレスはセレモニーでファンに感謝を伝え、何度も手を振った。そして大勢の報道陣に囲まれた記者会見を、質疑応答を遮ることなく長々と続けた。真摯な姿勢が彼らしい。

「自分は出会いに恵まれ、幸せなサッカー人生を送ることができた。好きなことを仕事にできたのは幸運だったと思う。恐れることなく、あきらめず戦い続けた」

 トーレスは言った。世界最高のストライカーの称号を得た男のサッカー人生。それは、言葉で語れるようなものではない。この日、盟友アンドレス・イニエスタは、そのプレーでトーレスのサッカー人生を投影した――。

現役最後の試合でファンに手を振るフェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)現役最後の試合でファンに手を振るフェルナンド・トーレス(サガン鳥栖) 8月23日、駅前不動産スタジアム。ヴィッセル神戸戦のウォーミングアップから、トーレスの表情は穏やかだった。引退試合だが、気負いは見えない。18年間、トップリーグでプレーし続けてきた分厚い経験が重石になっているのだろう。

 2001年にプロデビューしたトーレスは、アトレティコ・マドリード、リバプール、チェルシー、ミランというビッグクラブを渡り歩いた。赤いユニフォームのチームが多く、敵に向かって切り込んでゴールの雄叫びをあげると、返り血を浴びたように映った。スペイン代表としても、自らの得点で2度の欧州王者、世界王者に輝いた。

 トーレスはその18年間を背負って、ラストゲームのピッチに立った。序盤から積極的なプレッシングで味方を鼓舞。プレスバックでは相手選手の腕に手をかけ、執拗に追いかけた。プロとして手加減はない。

 しかし「世界的選手の最後」という熱気に触発され、黄金の輝きを放ったのは、神戸のイニエスタだった。

 イニエスタは、トーレスとスペイン代表のユース年代から切磋琢磨してきた戦友である。欧州選手権、ワールドカップでは、ともに優勝を祝っている。所属クラブでは敵味方に分かれて戦ったが、2人の間には尊敬の念しかない。

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