大岩剛をコンバート。ベンゲルが魔法をかけて、グランパスは変貌した (4ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

 1-0で勝利した次節の柏レイソル戦では、右サイドハーフにボランチの中西哲生が起用された。ストイコビッチには左サイドに流れる傾向があるため、右サイドはバランスを取る必要があったのだ。
 
 もっとも、アーセン・ベンゲルは中西に自陣にとどまることだけを求めたわけではない。

「行けるときには攻撃に参加してくれ、と言われていました」
 
 実際に、3-2で勝利した6月24日の第19節・横浜マリノス戦では、中西のアシストから岡山がゴールを決めている。後半8分、ストイコビッチからサイドチェンジのパスを受けた中西が、切り返してからクロスを放り込み、岡山が頭で叩き込んだのだ。

「ダイナミックな展開ですごくグランパスらしいゴールだった。でも、このあとオフサイドだったのに(マリノスの)山田隆裕のゴールが認められて、ベンゲルが激怒しちゃうんです」

 ときに激情家の一面を覗かせるベンゲルは、判定をめぐってテクニカルエリアから飛び出してレフェリーに詰め寄り、退席処分を受けてしまう。

 だが、生まれ変わったグランパスは、指揮官不在でも崩れなかった。中西に代わって入った米倉誠が決勝弾を叩き込み、4連勝を達成する。この米倉と、森山泰行がスーパーサブ的な存在として確立され、チーム力はさらに高まっていった。

 ベンゲルがスタンドから見守った第20節のサンフレッチェ広島戦では、開始1分で先制点を奪われる。しかし、ハーフタイムにロッカールームにやってきたベンゲルは「精神的に強く戦えれば、2-1で逆転できる」と選手たちを鼓舞した。

 すると後半、途中出場の米倉のゴールで追いつき、森山が決勝ゴールを奪うのだ。

「ベンゲルの言ったとおりになった、って選手たちは驚いていましたよ。でもね、負けたら誰もベンゲルの言葉なんて覚えてないけど、勝ったら、すげえなっていうことになる。言ったもん勝ちではあるんだけど、シンプルに言い切って選手をその気にさせるうまさがありました」

 木本が22年前の取材ノートをめくりながら、当時の様子を振り返る。

 その後、第21節には清水エスパルス、第22節には鹿島アントラーズと、苦手とするチームからも白星を奪って7連勝を飾った。グランパスは1995年シーズンを迎えるまで2連勝しかしたことがなかったため、クラブの連勝記録を一気に3倍以上伸ばしたことになる。

 それは、紛れもなくフランスキャンプの成果だった。だが、一方で、ストイコビッチのパフォーマンスによるところも多分にあった。

"妖精"が、いよいよ真価を発揮し始めたのだ。

(つづく)

◆ベンゲルに挨拶に来たジョージ・ウェア。グランパスの選手は仰天した>>

◆光った柴崎岳、ハマらぬコウチーニョ。2人の違いでバルサが大苦戦に>>

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