開幕2連勝。豊田陽平「鳥栖の強さは最後に出る」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 日刊スポーツ/アフロ●写真

 顔をしかめて言った彼は、テーブルに置かれたお膳を手元に寄せ、綺麗に割り箸を割って続けた。

「プロとして12年目で、そういう痛みにも慣れました。プレシーズンにはタイへ遠征して試合をしたんですが、タイ人選手は荒っぽくて、二度顔面にパンチを食らいましたよ。平手で叩かれる、というのではなく、思いっきり拳で顔面を殴られました」

 一度目は相手の主将の前を横切ったとき、前に入られたのに腹を立てたのか、いきなり殴ってきた。二度目はセンターバックにプレスに行ったとき、ご丁寧に向き合ってから殴られた。審判にアピールしたが、いずれも無視だった。

「鼻は折れていましたね。元々折れていたからか、違う箇所だったんですが、痛みはあまりなかったですが」

 彼は折れた鼻の辺りをさすった。

「二度目のパンチの後は目の焦点が合わず、景色が上下に分かれたままでした。直後にPK戦になったんですが、さすがに蹴れませんでしたね。片目を瞑(つむ)れば蹴られたんですが、それなら他の選手が蹴るべきだなと。翌日には、目の周りが内出血して腫れました。チームとして抗議してもらったけど、なんの返答もないそうです。タイのクラブでのプレイは勘弁ですね(笑)。でも、サッカー選手をやっている限りは、こんなもんなのかなと」

 プロのアスリートは体が資本だ。それは間違いない。しかし突き詰めれば、"こんなもん"という境地に到達できる精神力こそが、その肉体を支えているのだろう。

 豊田陽平はJリーグを代表するストライカーである。Jリーグでプレイして12年目。最近3シーズンは連続15得点以上を記録(日本人選手では三浦知良、武田修宏、中山雅史以来、12年ぶり史上4人目の快挙)し、2015年には3シーズン連続Jリーグ開幕戦得点(日本人では過去最多タイ)を達成した。2010年から所属するサガン鳥栖において、その存在はエース以上の重みがある。

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