唯一OAゼロでパリ五輪に挑むU-23日本代表が強豪フランスとドロー 手にした自信と見えた課題 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【余裕があった藤田譲瑠チマ】

 そもそも細谷は何度、ボールに触れたのか。細谷は実力者ではあるが、1トップを張るタイプではない。CFとしては幅の狭い選手だ。高いマックス値を発揮することもあるが、展開によっては沈黙する。藤尾が先発を張る姿に、大岩監督の優先順位の変化を見る気がした。

 藤尾は1トップ兼ウイングだ。細谷についてもウイングができないと将来的に苦しくなる。このフランス戦を見て、よりその思いを強くすることになった。

 これまで戦ってきた相手より、フランスは明らかに上だった。選手の能力、調子を推し量るにはいい機会となった。

 よかった選手を挙げてみたい。先制弾を挙げた藤田は終始プレーに余裕があった。アシスト役を演じた三戸も同様。相手に囲まれても安心して見ていられた。守備機会の多かったGK小久保、CB高井、そして右ウイングとして先発し、後半は戦術的交代で左に回った平河も健闘した。軸として使える確信を抱かせた。その他の選手も、強者相手に混乱し、パニックに陥ることはなかった。それが1-1で終えることができた理由だろう。

 オーバーエイジを含まないチームは、蓋を開けてみれば、全16チーム中、日本だけだった。メンバー発表の席上で山本昌邦ナショナルチームダイレクターはその招集の難しさを口にしたが、他国はそうしたなかでも結果を求め、18人の枠内にオーバーエイジを入れ込んできた。

 唯一、権利を放棄した日本の選択が、ひときわ目立つ恰好だ。それが協会の潔く賢明な選択だったのか、努力不足なのか、検証する必要は大いにあるが、それはともかく、選手も監督も、この自らの特殊性についてはすでに十分、認識しているはずである。

 パスワークに1トップをどう絡めるか。筆者が以前から指摘している点は、根の深い問題として残る。一方で、辛うじてとはいえ、強者フランスに最後まで大崩れせず、決勝弾を許さなかったことは大きな自信になるのではないか。このタイミングで大敗をすれば、大会を前に自信を喪失するところだった。1-1で終えてよかったとはいうのが正直な感想だ。チャレンジャー精神を高める結果になったと考えたい。

 唯一、オーバーエイジがゼロの日本がパリ五輪でどこまでやるか。これから始まる実験を見るような気分である。

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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