谷口彰悟が目の当たりにした大久保嘉人のすごさ「DFよりも先にボールに触れるのには、明確な理由があった」 (4ページ目)
【若手選手にとって一種の洗脳に近かった】
ほかの選手と同じように、僕も常に「俺に(ボールを)寄こせ」と言われてきた。嘉人さんにとっては、相手がマークに来ているか来ていないかは苦ではなく、むしろ相手が自分に食いついている状況を歓迎している節(ふし)すらあった。練習も含めて、何度も「マークが来ていても(パスを)出していいから」と言われていた。
だが、うしろにいる選手としては、相手が嘉人さんに食いついているということは、ほかが空くということでもある。そのため、一度は外を使って、嘉人さんが作ったスペースを狙う意図も考えていた。だから、すべての要求に応えていたわけではなく、「はい、はい」と思いながら、平然と違う選手にパスを出したこともある。
その要求にしても、嘉人さんだから語ると、賢くなさそうなわりに、いろいろと考えたうえでの行動、言動だったように思っている(笑)。うるさいくらいに要求され続けることで、うしろにいる選手たちは、まず嘉人さんを見る習慣ができていた。それは若手選手にとっては、一種の洗脳に近かったかもしれない(笑)。
常に足を止めない──自分も攻撃時のセットプレーでは、足を止めないことを意識するようになり、CBとして向き合っていくなかでは、最後の最後まであきらめずにゴール前をカバーすることで、ボールを弾き返せたり、相手の得点を防げたりする場面は増えていった。そこにCBとして手応えを実感し、自信をつけていったことを覚えている。
◆第19回につづく>>
【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンSCに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。
著者プロフィール
原田大輔 (はらだ・だいすけ)
スポーツライター。1977年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めたのち独立。Jリーグを中心に取材し、各クラブのオフィシャルメディアにも寄稿している。主な著書に『愛されて、勝つ 川崎フロンターレ「365日まちクラブ」の作り方』(小学館クリエイティブ)など。
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