なでしこジャパンはW杯優勝の12年前と同じ上昇気流を生み出せるか 必要な要素は? (2ページ目)
後半に向かうピッチで長谷川から、こう声をかけられた。
「今日は絶対に決めよう!」
藤野は「これで気持ちが割りきれた」と言う。「ゴールを決めるためにここに来た」と自分に言い聞かせた。そして、ゴールに近いポジションに走り込んだ藤野にようやく"その時"が訪れた。左サイドをかけあがった宮澤ひなたが中へ折り返すと手前に入っていた植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)がスルー。ボールは藤野の足元に。珍しくもたついたが、素早く右足を振り抜いた。
「ずっと求めていたものだった」(藤野)ゴール後、真っ先に長谷川のもとへ。そしてすぐさまベンチへ向かった。「今日こそゴールを決めたい」とこぼす藤野に平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)は「大丈夫!」だと太鼓判を押した。走り出す藤野の視線の先には、彼女以上に満面の笑みを浮かべた平尾が両手を広げて待っていた。
チームの結束は高まってきている。強度が上がるワールドカップでパナマ戦のように主導権を握ることは容易くできないだろう。なでしこが、4バックから3バックに切り替えてからの戦績は10戦5勝5敗。格上には2月のShe Believes Cupでカナダに1勝したのみと厳しい戦績ではある。けれど、2011年も直前の遠征でアメリカに連戦で惨敗を喫するなど、決していい状態ではなく、現地入りしてからも手探りのまま勝ち上がっていくことで、上昇気流を生んだ。
ひとつでも何かを乗り越えた時、チームは必ず強くなる。12年前に優勝したチームにあってこのチームがまだないものは、「粘り」ではないだろうか。また、2011年のチームには"誰も置いていかない""誰が欠けてもこのチームにはならない"という説明のつかない団結するために「吸引力」があった。ベンチとピッチが同じ温度で戦えるチームには粘りを生む原動力が備わっている。藤野がゴールしたあとのピッチ上の、そしてベンチ前に駆け出した選手たちの表情に、その可能性を見た。
日本のワールドカップは22日、ザンビアとの一戦で幕を開ける。
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