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「中村俊輔と小野伸二を一緒にプレーさせた。私のベストゲームのひとつ」。トルシエは日本での始動となる2試合で能力を証明した (2ページ目)

  • 田村修一●取材・文 text by Tamura Shuichi
  • photo by REUTERS/AFLO

 では、ラボでいったいどんなサッカーを実践し、プレーを構築しようとしたのか。当時、東京プリンスホテルでインタビューした際の、彼の言葉をよく覚えている。「あなたのサッカーの特徴は?」という私の質問に対して、彼はこう答えたのだった。

「それは、実際に見ればわかる。プレースタイルも、それからトレーニングも、君がこれまでに見たこともないものだ」

 フラット3によるラインコントロールとオフサイドトラップ。人ではなく、ボールの位置に対応する守備ブロック。ボールを保持するや、チーム全体が流動的に動き出す攻撃......。

 確かに当時は見たことのないスタイルであり、トレーニングだった。チームを構成する全員が同じ考えを共有し、同じコンセプトのもとにプレーを実践しなければ、それは成り立たないスタイルでもあった。

「ラボのなかでは、五輪代表(やユース代表)に対しても、A代表と同じ方法論とアプローチで臨んだ。それぞれのチームを招集するたびに、彼らに情報を与えた。プレーの組織や哲学など、チームのベースとなる情報だ。

 尊重すべきプロトコルが自然と身につく環境に選手たちを置くことができた。技術やコミュニケーション、攻撃と守備についてのプロトコル、すなわちプレーのプロトコルを、私は具体化して彼らに授けた。繰り返し練習することで、彼らは着実に私のプロトコルと方法を身につけていった。

 ただ、それには時間がかかった。一朝一夕というわけにはいかなかった」

 攻撃も守備も、トルシエは自らの定めた型に選手を当てはめる。それが、彼のスタイルであり、哲学だった。徹底した繰り返しにより、型を選手に覚えさせる。そのためのトレーニングセッションは、ボールを伴わずに動きだけを敷衍(ふえん)させるシャドートレーニングが中心だった。

「試合でひとりの選手がボールに触れている時間はせいぜい1分だ。統計を見ても、数値としてそれは示されているはずだ(※一般的にはおよそ2分と言われている)。それ以外の時間は、チームメイトとコミュニケーションをとりながら、チームのためにボールを持たずに動いている。

 つまりサッカーにおいては、90分間のうち90%以上がボールを持たない動きになる。しかしその間も、チームは集中力を保ちながら、組織を維持しなければならない。

 だから、11人の選手がひとつのボールを中心に一体感を保ち続けるためのトレーニングが必要だ。目的は、11人がひとつのボールのもとでプレーすることだからだ。スムーズな動きを確立するための意志の統一とコミュニケーションが、それには不可欠だ」

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