国際Aマッチ122試合を誇る井原正巳の日本代表ベストゲーム「涙が出そうになるくらいの感覚でピッチに立った」 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Getty Images

「カズさん(三浦知良)、キーちゃん(北澤豪)、市川(大祐)が(ワールドカップの登録)メンバーから外れるということが発表された日でした。その発表があったあとの練習で、自分が右ヒザの内側靭帯をケガしてしまったんです」

 チーム内に動揺があっても不思議ではない時に、追い討ちをかけるようなキャプテンの負傷。井原は大きな責任を感じていた。

「そういうメンバー選考のことも(影響が)あったのかもしれないですし、自分でもすごくタイミングが悪い時にケガをしてしまったな、と。(初戦まで)残り10日くらいしかないなかで、もしかしたら(登録メンバーを)辞退しなければいけないのか、というくらいのケガでした」

 とはいえ、「一度やったことのあるケガではあったので」と井原。ドクターをはじめとするスタッフのサポートもあり、「アルゼンチン戦にはいけるだろう」との判断が下された。

 そこからは時間との戦いだった。

 最初の3日間は、「それで大丈夫なのかと思いながらも、何もしないことが練習ということで」、ひたすら安静に努め、残る1週間でケガを回復させながら、試合に向けて状態を上げていくことになった。

 井原は、その間に行なわれた本番前最後のテストマッチ、ユーゴスラビア戦も欠場。「初戦から逆算して準備していきました」と語る。

「監督の岡田(武史)さんが、『(アルゼンチン戦に)間に合うんだったらそれに合わせろ』ということで、私を先発で使う決断をしてくれて、自分なりに(リハビリを)やらせてもらえた。監督をはじめ、スタッフの判断やサポートがなければ、初戦には出られなかったと思います。

 自分も指導者になってみて、そのあたりの決断の難しさがわかるようになった分、そこは本当に感謝しかありません。本当に間に合うのかなという不安との戦いもあるなかで、もうギリギリでしたけど、試合当日には100%の状態にはもっていけた、と自分では思っていますし、そういうこともあって、自分のなかではより印象深いゲームになりました」

 こうしてたどり着いたアルゼンチン戦。井原はいつもように左腕にキャプテンマークを巻き、チームの先頭に立ってピッチに入ってきた。

「自分はワールドユースとかに出たことがなく、ワールドカップが初めての世界大会だったので、(それまでの試合とは)全然違いましたね。いろんなものを犠牲にして戦ってきて、ようやく自分が目標にしていた大会のピッチに立ったんだという思いで入場してきましたし、まだゲームもしていないのに気持ちが高ぶって、もう半分涙が出そうになるくらいの、そういう感覚でピッチに入っていったのは覚えています」

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