国際Aマッチ122試合を誇る井原正巳の日本代表ベストゲーム「涙が出そうになるくらいの感覚でピッチに立った」 (3ページ目)
と同時に、遠くフランスまで駆けつけ、スタジアムのほとんどを埋めた日本サポーターの存在が心強かったことも、鮮明な記憶として残っている。
「試合会場が日本のサポーターであふれかえっていて、ワールドカップの一戦ではあるけれど、ホームゲームのような雰囲気を作ってもらえたことで、より勇気を与えてもらえました。守備の時間が長くなる厳しいゲームのなかで、すごく我々の後押しをしてくれたなと思います」
守備の要となる3バックの中央に入る井原が全体練習に復帰できたのは、初戦のわずか数日前。それでも、井原に大きな不安はなかった。
「(4バックから3バックに変更した)システムも含めて、5月くらいからアルゼンチンを想定した対策がスタートし、国内で何試合かこなして、ある程度やり方の整理はつけながらできていました」
折しも当時、日本代表に本格的なスカウティングが導入されたことも大きかった。
「ちょうどこの大会の前くらいから、相手チームにどういう特徴があって、どういうやり方をしてくるというスカウティング情報が入って、戦術に落とし込まれるようになった時でした。
コーチの小野剛さんをはじめ、今の横浜FC監督の四方田(修平)くんや、ユース育成ダイレクターの影山(雅永)だったりがサポートをしてくれていたんですけど、そういうスカウティングの力も大きかったと思います。
アルゼンチンには、バティストゥータ、クラウディオ・ロペス、オルテガ、ベロンなど、そうそうたるメンバーがいましたが、彼らの特徴を頭に入れながらゲームに臨めた、という状況ではありました。守備の時間が長くなるだろうけど、そこでいかに我慢強く耐えられるか。0-0の時間をいかに長くできるか。そこがひとつのポイントだったと思います」
実際、試合は立ち上がりからアルゼンチンが攻勢に進めたが、井原にしてみれば、「それも想定内」だった。
ところが、試合は意外な形で動いてしまう。
前半28分、中盤で日本のパスをカットしたオルテガが、一度ボールをシメオネに預け、リターンパスを受けるべくゴール前へ走り込む。すると、このリターンパスを意図的にスルーしたのか、あるいはトラップミスだったのか、いずれにせよ、オルテガが触れずに抜けてきたボールが不意を突かれた名波浩に当たり、バティストゥータの足元に転がった。
いわば、偶発的に生まれたチャンス。だが、世界屈指の点取り屋がそれを見逃すはずはなかった。井原が「ゲームプラン的には、非常に難しくなってしまったことは否めない」と振り返る先制点は、こうして生まれた。
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