J開幕前夜の劇的な日本代表の一戦。福田正博は自身のベストゲームにチョイス「あの時がピークだった」 (4ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Etsuo Hara/Getty Images

 自信満々だったはずの福田も、これにはさすがに慌てていた。

「逆転して楽勝かなと思っていたら、退場者が出て、前川がポロッとやってしまった時は、『ここからどうやって点をとるのかな。PK戦までいったら嫌だな』とは思いました。ちょっと失点の仕方が悪かったですからね。あそこで負けていてもおかしくないゲームだったかもしれません」

 しかし、そうは言いながらも、福田には不思議と精神的に追い詰められた記憶はない。

「自分の思うようにプレーができていたし、体ってこんなにも自分が思ったように動くものなんだなって思いながらプレーしていたようなところがありました。だから、なんか......チームもいけるんじゃないかなって感じは、僕のなかにありましたね」

 そして実際、福田が決勝ゴールをお膳立てした。

 84分、福田が右サイドから正確なクロスを送ると、ファーサイドで待っていた中山雅史がヘディングシュート。これがゴールネットを揺らし、ついに勝負は決した。

 福田はこの試合、1ゴール1アシスト。加えて、得点以外にも多くのチャンスを作り出し、文句なしのマンオブザマッチに選ばれた。

「今だと、『相手を見ながらプレーができる』っていう表現がありますけど、当時の僕は、まさにそんな状態だったと思うんです。本当にいろんなものが見えていて、相手がこっちから来るから、こっちへボールを持っていけばいいなとか、そのくらい余裕を持ってプレーができていたような感じがします」

 また、日本リーグ(JSL)時代を知る福田にとっては、会場が広島スタジアムだったことも、この試合を一層印象深いものにしている。

「この大会のメイン会場(広島広域公園陸上競技場)は、新しくできたスタジアムでしたけど、飛行場の近くのスタジアム(広島スタジアム)はJSL2部の時によく使っていたので、僕にとっては思い入れがあったんです。あのコンパクトなスタジアムでやれたことも、この試合が思い出深い理由です」

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