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「バカヤロー!」のひと言で本気モードに 唐川侑己の"怒り"の快速球を受け止めた日 (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Masahiko Abe

「やっぱり、今日は骨が折れそうだ......」

 まだ立ち投げなのに、すでにミットの中の手がヒリヒリしている。

 だがその後、腰を下ろして真っすぐを10球ほど受けたが、あまり驚きはなかった。構えたミットにピシャッと来る。たとえば、右打者のアウトコースにわざと低く構えても、しっかり投げ込んでくる。それでも、投げ込んでくるボールにも、投げっぷりにも"圧"を感じない。

「唐川、ブルペンじゃ本気で投げませんから!」

 さっきの尾島監督のひと言は、やっぱり本当だったのか。

「本気で投げていいからね、そのつもりで来ているんだから!」

 煽ったつもりが、「はい」とカラ返事でいなされてしまった。

「さあ、本気で来い!」と、さらにゲキを送ったつもりの次の1球も、やっぱりサラッと来たから、先にこっちの心に火がついた。

「これが成田の唐川の真っすぐか? バカヤロー!」

 思いっきり投げ返しながら吐いてしまった"激励"に、ついに火がついた。私からの返球をむしり捕るような「パッシーン」という乾いた捕球音に、唐川のプライドを垣間見た。

【本気の投球で球速10キロアップ】

 イケメンの唐川の顔が、一気に真っ赤になった。気のせいか、こっちを睨む切れ長の目まで、真っ赤に充血しているようだ。

「うわっ、怒らせちゃったよ〜。えらいこと言っちゃったな......」

 いまさら「ゴメン」とも言えないし、こうなったら唐川の怒りを潔く受け止めるしかない。なによりこの取材は、目の前の投手が"全力投球"してくれてこそ成立する。その1球を引き出すために、自分はここでしゃがみ、ミットを構えているのだ。

 ここからがすごかった。スピードは、135キロ前後から、間違いなく10キロは上がっていただろう。とにかく腕の振りが、"怒り"を帯びたものに変わっていた。きれいなタテの腕の振りから投げ下ろしてくる快速球が、容赦なく構えたミットを突き上げる。

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