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「バカヤロー!」のひと言で本気モードに 唐川侑己の"怒り"の快速球を受け止めた日 (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Masahiko Abe

 140キロ台中盤の快速球に、まったく腕の振りが変わらないフォームからの高速スライダー。「今日こそやられるかもしれない......」と本気で思ったものだ。ちなみに"やられる"とは、大ケガをするという意味である。

 とにかく、緊張度120%で成田高のグラウンドに乗り込んだ私にとって、尾島治信監督(当時)のあいさつトークは、「地獄に仏」のようだった。

「唐川、ブルペンじゃ本気で投げませんから!」

 勝手になごんでしまった。そんな弱腰が情けない。しかし当時の私など、そんなものだった。

「なので、『なんだ、こんなボールか』と思ったら、ガンガンねじ巻いてやってください!」

 この「流しのブルペンキャッチャー」の連載が始まって、まだ数年。

「安倍さんが、めちゃくちゃ怯えながら、なんだかわかんないけど、すごいボールを捕っちゃっているっていうのが面白いんですから(笑)」

 編集長の無責任な笑いと、私のよくわからない反骨心みたいなもので成り立っていただけだったが、毎回、十分に怯えていた。だから、本番前の葛藤も並大抵ではなかった。

 成田高グラウンドのブルペンは、2、3人が投げればいっぱいになるぐらいの広さだったと思う。それだけに、捕手のポジションに腰を下ろすと、なんだか自分の家に帰ってきたような心持ちで、妙に落ち着いたものだ。

「よし、今日はやれそうだ!」

【煽り文句に垣間見たプライド】

 ブルペンに立った唐川の真っ白い練習用のユニフォームが初々しい。色白の小顔。涼しげな眼差しで、こちらを見下ろしている。

 ブルペンで向き合う投手と捕手は、本来であればチームメイトであり、バッテリーを組む"味方同士"の関係だ。だが、「流し」のブルペンでは空気が一変する。そこにあるのは、まるで刃を交えて向き合う剣豪と田舎侍のような緊張感──。ブルペンはいつしか、敵同士が対峙する空間へと変わっていく。

 あいさつ代わりの立ち投げで10球ほど。まるで指導書に載っているかのような、端正なオーバーハンドだった。リリースで軽く弾いているだけなのに、ボールは生き物のような生命力で、こちらのミットに突き刺さる。

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