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しなる右腕から放たれる"アニメの主人公"のような快速球 無口なエース・岸孝之はまさに難攻不落の強者だった (4ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Masahiko Abe

 それは「岸孝之投手への手紙」だった。共にユニフォーム姿となって、ブルペンで、インタビューをした監督室で、時間と空間を共有した半日の間で感じたこと、驚いたこと、考えたこと......。そんなことをつらつらしたためた「手紙」は、そのまま記事になった。

 その最後のところで、たしかこのようなことを書いたように思う。

<岸くんにも、いろんな事情や、都合や、思うところがあるのだろうけれども、伝えるべきことを伝えずにいて、もし誤解されてしまって、つまらないことにならなきゃいいけれど......。>

【プロ1年目から大奮闘】

 その年、投手として一気に飛躍した岸は、「希望入団枠」というスペシャルな待遇で、西武に入団すると、1年目からローテーションの一角を占める大奮闘を果たした。そんななか、ずっと気になっていたのが、登板翌日のスポーツ紙の記事だ。

 投球内容や、勝った、負けたといったことは、どうでもよかった。目が行くのは、記事の中に岸の言葉がいくつあるか。つまり、記者たちにどれくらい話ができたのか、その一点だった。

 好投して、写真入りの大きな記事になっているのに、"カギカッコ"は2行だけ。そんなことが何年か続いたが、それでも現役年数に比例するかのように、2行が3行になり、3行が4行になり......。2ケタ勝利よりも、2008年の日本シリーズのMVPよりも、そちらのほうがずっとうれしく思ったものだ。

 2017年から故郷の仙台に戻り、楽天の帽子とユニフォームを身にまとった選手名鑑の岸を眺めている。

「いい顔になったなぁ」

 若い頃の端正なイケメンに、幾多の歴戦を乗り越えてきた渋さが加わって、「こんなマスクの役者がいたらいいのになぁ」と思うような"ナイス・ミドル"ではないか。

 きっとあのあと、いい時間をたくさん過ごしてきたのだろう。プロ20年目のシーズンを送る今、心から祝福したい気持ちでいっぱいである。


岸孝之(きし・たかゆき)/1984年12月4日生まれ、宮城県出身。名取北高から東北学院大に進み、4年春のリーグ戦で18年ぶりの優勝に貢献。2006年大学生・社会人ドラフトの希望入団枠で西武に入団。08年、巨人との日本シリーズで2戦2勝、14回2/3を無失点の活躍でMVPに輝く。14年にはノーヒットノーランを達成し、最高勝率(.765)のタイトルを獲得。2017年に楽天へ移籍し、翌18年には最優秀防御率(2.72)に輝く。23年に通算150勝、2000奪三振を達成した。

著者プロフィール

  • 安倍昌彦

    安倍昌彦 (あべ・まさひこ)

    1955年、宮城県生まれ。早稲田大学高等学院野球部から、早稲田大学でも野球部に所属。雑誌『野球小僧』で「流しのブルペンキャッチャー」としてドラフト候補投手のボールを受ける活動を始める。著書に『スカウト』(日刊スポーツ出版社)『流しのブルペンキャッチャーの旅』(白夜書房)『若者が育つということ 監督と大学野球』(日刊スポーツ出版社)など。

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