しなる右腕から放たれる"アニメの主人公"のような快速球 無口なエース・岸孝之はまさに難攻不落の強者だった (3ページ目)
そして「あのカーブ」というのは、いったんフッと浮き上がってから、ストンと落ちる。ストーンというほどの落差はないが、そのかわり真下に落ちてくる。昭和の名投手たちが操った"ドロップ"のような軌道だ。
岸のボールは全球種が低めに集まり、なかでもストレートが秀逸だ。とにかくボールの伸びがすばらしく、低めの速球で"高さの感覚"がわからなかったのは、岸と、今やオリックスでレジェンド的な存在になっている平野佳寿のふたりだけだ。
【究極の人見知り!? 2時間半の沈黙】
そんな表現力豊かなピッチングとは裏腹に、岸はほとんど話さない。結局この日、会話らしい会話はなかった。
「岸は初めての人にはまずしゃべりませんよ。大丈夫ですか? 私が通訳しましょうか?」
東北学院大の菅井徳雄監督(当時)は、攻略困難な取材相手を前に苦慮する私を不憫(ふびん)に思ったのだろう。いろいろと救いの手を差し伸べてくれた。
「私なんかには少し話すんですけどね。チームメイトともあまり話さないし、人見知りなのかなんなのか......初めての人には、まずダメなんでね」
そうはいっても、監督さんに通訳してもらっては岸の"言葉"にはならないし、なんとかしようと、昼食を挟んでトータルで2時間半ほど頑張ってみたが、ピッチング同様"難攻不落の強者(つわもの)"だった。
端正な顔立ちのポーカーフェイスから発せられる言葉は、「まあ、はい」「いや、べつに」「うーん、どうですかね」くらいで、結局は、私が信頼してもらえなかったんだ......と、こちらからのギブアップで終わった。
困ったのは、そこからだ。「流しのブルペンキャッチャー」は、ボールを受けて終わりじゃない。受けて、語り合って、それをベースとして記事にしなきゃならない。話してくれなきゃ、"カギカッコ"の部分がつくれないし、読む人だってつまらないだろう。
とはいえ、無理やりでっち上げるわけにもいかないし、さんざん悩んで、ない知恵を絞って"妙案"が浮かんだ。
3 / 4

