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広島・中村奨成がプロ8年目の飛躍「飛ばしたい」「ホームランを打ちたい」を捨ててたどり着いた新境地 (3ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun

【力と力の勝負を挑んでも勝てない】

── そこから徐々に代打での出場も増えてきましたね。

中村 今季初打席(4月11日の巨人戦)は代打でしたけど、1球で仕留められたことで手応えを感じられました。早く試合に出たいなと思っていたところで、(4月18日)ナイターの前に二軍の試合に出る「親子ゲーム」をしたんですけど、そこで阪神先発の伊藤将司さんから2安打したんです。試合前から「打てばいいアピールになる」と思っていましたし、実際に打席でもすんなりバットが出せたんです。

── その2日後、左腕の伊原陵人投手が先発した阪神戦で今季初スタメンとなりました。

中村 そうですね。伊原投手からも1本打てましたし、自分のなかでは7回にゲラ投手から打ったセンター前ヒットが一番いい感触がありました。150キロを超える速球を左中間にライナーで打ち返せた。あの打球は、自分が追い求めていたものに近い、練習どおりの打球を打てたと感じました。

── インパクトまでの動きが小さいと力感を感じにくくはないのですか?

中村 やっぱり力感はほしいですよ。飛ばしたいし、ホームランも打ちたい。でも、それで何年も失敗してきたので。投手の球速も上がっていますし、自分には外国人選手のような体や筋力はないので、やみくもに力と力の勝負を挑んでも勝てません。でもゲラ投手から打った時のように、速い真っすぐに対してもバットの振り抜きがよければ勝手に飛んでいく。そう感じられました。飛ばす以前に、前に飛ばないと意味がないですからね。

── 打席数が増えたことで、打席内での落ち着きや冷静さも生まれたように感じます。

中村 それもバットをいつでも出せるという安心感が大きいと思います。待っていた球ではなくても、詰まりながらヒットコースに飛ばせたり、泳がされながらもヒットにできたりすることが増えてきました。

 たとえば4月27日のDeNA戦で(トレバー・)バウアー投手から打った三塁打は、真っすぐに詰まりながらも右中間に持っていけた。5月7日のヤクルト戦で山野(太一)投手から打ったレフト線の当たり(左越え二塁打)も、崩されながらなんとか食らいついていこうと運べた。それらは今年、バットが出やすいところにあるからだと思います。

つづく


中村奨成(なかむら・しょうせい)/1999年6月6日生まれ。広島県出身。広陵高校時代、3年夏の甲子園で1大会6本塁打の新記録を樹立。2017年のドラフトで広島から1位指名を受け入団。「打てる捕手」として大きな期待を受けるも、なかなか結果を残せず、24年に捕手から外野手登録となり、背番号も22から96に変更となった。25年は勝負強い打撃でチームの勝利に貢献している

著者プロフィール

  • 前原 淳

    前原 淳 (まえはら・じゅん)

    1980年7月20日、福岡県生まれ。東福岡高から九州産業大卒業後、都内の編集プロダクションへて、07年広島県のスポーツ雑誌社に入社。広島東洋カープを中心に取材活動を行い、14年からフリーとなる。15年シーズンから日刊スポーツ・広島担当として広島東洋カープを取材。球団25年ぶり優勝から3連覇、黒田博樹の日米通算200勝や新井貴浩の2000安打を現場で取材した。雑誌社を含め、広島取材歴17年目も、常に新たな視点を心がけて足を使って情報を集める。トップアスリートが魅せる技や一瞬のひらめき、心の機微に迫り、グラウンドのリアルを追い求める

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