ヤクルトを支えたユーティリティプレーヤー、荒木貴裕の野球人生を変えた三木肇、真中満との出会い (3ページ目)
勝負強さが光った2017年のハイライトは、中日の大野雄大から放ったサヨナラ満塁本塁打(5月14日)だろう。かつて宮本慎也らと共に自主トレで汗を流した松山・坊っちゃんスタジアムで、人生初の快挙を成し遂げた。
「実は、この満塁本塁打以外は、そんなに大野投手から打てていないんですけどね(苦笑)。大野投手のツーシームは、打席に立つとフォークのように落ちるように見えるんです。なので『低めは絶対に振らない』と決め、高めに来たボールを振るように心がけていました」
大野が投じた速球を振り抜くと、打球は大きな放物線を描いて左翼スタンドに。ホームベースを踏んだ荒木の周囲には、歓喜の輪が生まれた。
この年、守備では内・外野3つのポジションを兼任。先発メンバーに名を連ねることもあれば、重要な局面で代打や代走として起用されることもあった。ベンチにいる時は「先の展開を読みながら、自分の出番に向けて準備していた」という。
難しい状況に対応するために役立ったのは、二軍でプレーしている時に「宮出隆自コーチ(現・二軍打撃コーチ)に教えられた」というノートをつける習慣だ。
「思うように結果が出なかった試合でも、相手投手の特徴やその時の配球などを書いていくとデータが蓄積されて、次の対戦に役立つことがあるかもしれない。ペンを走らせることで気持ちも落ち着きますし、ネガティブな感情をリセットして気持ちを切り替えることができていたのかなと思います」
2021年には、就任2年目の高津臣吾に率いられたチームが6年ぶりのリーグ優勝を達成。25年ぶりのパ・リーグ優勝に沸くオリックス・バファローズを4勝2敗で下し、チームは20年ぶりの日本一も成し遂げた。
荒木は守備固めを中心に、自己最多の100試合に出場。チームが延長戦の末に日本シリーズの制覇を決めたのも、荒木が守るファーストへのゴロだった。
「子供の頃から野球を続けてきて、ボールを取るという当たり前のことに緊張したのは、あの時が初めてでした。シーズンを通して守備固めを任される場面も多かったですが、どんなにうまい選手もミスのあるスポーツなのに、絶対にミスが許されない場面で守りにつく大変さや、背負う重圧の重さを感じずにはいられませんでした」
3 / 4