巨人・松井颯「凡人でもやればできると証明したい」高校時代は控え投手「育成の星」の挑戦
背番号93が巨人の一軍に昇格したのは、2月13日のことだった。
その2日前の紅白戦では先発を任され、1回無失点。主力の門脇誠、吉川尚輝、岡本和真を打ちとっている。16日に宮崎から沖縄へとキャンプ地を移し、開幕一軍をかけたサバイバルが本格化するなか、首脳陣はこの投手が必要だと判断したのだろう。
プロ2年目の松井颯(はやて)は、今季ブレイクが期待される「育成の星」である。
2年目のブレイクが期待されている巨人・松井颯 photo by Koike Yoshihiroこの記事に関連する写真を見る
【高校時代は4番手の控え投手】
明星大4年時の2022年ドラフト会議で巨人から育成1位指名を受けて入団。昨季は5月に支配下登録されると、5月21日の中日戦でプロ初先発初勝利を挙げた。
今春のキャンプは二軍スタートだったものの、持ち前の球威は群を抜いていた。2月7日、ライブBP(シート打撃)に登板した松井のストレートを、バットの芯でとらえられる打者はいなかった。
「ここまでは順調じゃないですか。今日は真っすぐでインコースをどれだけ突けるかをテーマにしていたので。桑田さん(真澄/二軍監督)からも『右バッターのインコースがシュートしなくなったね』と言ってもらえました」
---- 大学時代はあまりインコースを突くのが得意ではなかったのでは?
そう聞くと、松井は苦笑いを浮かべてこう答えた。
「大学ではインコースに投げなくても抑えられたので......」
2022年のドラフト指名選手のなかで、松井ほど実力と知名度が乖離した選手はいなかったかもしれない。花咲徳栄高時代は4番手格の控えだったこと、明星大では首都大学2部リーグという日の当たりにくい境遇にいたこと、ブレイクしたのが大学4年時と遅かったこと。以上の要因から、松井はドラフト戦線で埋もれていた。
だが、大学4年時に松井が投じていたストレートは、ドラフト上位候補の球となんら遜色なかった。エネルギッシュな腕の振りで、則本昂大(楽天)を彷彿とさせるスリークオーター。ドラフト会議前には6球団から調査書が届いている。それでも、指名されたのは育成ドラフトだった。
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。