侍ジャパンはなぜこれ以上ないエンディングで世界一を果たせたのか 栗山英樹「野球の神様がシナリオを書き始めた」 (2ページ目)
あの時、源ちゃんを残して下さいって、城石は言いたかったはずなんです。でも僕に「残してくれ」と言ってしまったら、このWBCで「絶対に情に流されない」と言い続けてきた僕を迷わせてしまうと思ったんでしょうね。だから「城石、わかった、源ちゃんと話をして決めるからさ、ありがとう」と言って電話を切りました。
僕を苦しめちゃいけないと思って、城石が言い切らないというのはわかっていたんです。それこそが、勝つために必要な間合いです。監督として何かを決めなきゃならない時、一度、心に落とすために一瞬の間が必要になるんです。それが自分を整理させる時間になりますからね。
一瞬の間とは......僕のなかにいる野球の神様と会話する時間になるのかな。これはこうしますけど、大丈夫ですか......いや、大丈夫ですかじゃないな。これはこうしますと言ったら、首をひねられて、いや、ちょっと待て、みたいな......そこでいったん平らに戻す。
監督って時間に差し込まれるんです。30分もらえれば答えは出ます。でも、それを3秒で考えて答えを出さなきゃいけないのが野球の監督ですから、準備が必要になります。3秒で答えを出すためには、あらゆることを想定しておかなければなりません。
今の状況で、このピッチャーはこうで、次のピッチャーはこう、バッターの特徴はこうで次のバッターはこう。そういうことをすべて並べて、落ち着いて考えさせてくれれば答えは出るんですが、3秒で、と言われるから差し込まれます。
もちろん、想定外のことだって起こりますよ。WBCで唯一、想定できなかったのは準決勝の(山本)由伸でした。5回からノーヒットピッチングが続いていて、7回に正尚の3ランで追いついた。さあ、ここから由伸で9回までいって、タイブレークになったら10回には大勢、というイメージを描いた途端、(8回表に)ツーベースが2本続いて勝ち越しの1点が入る......あの場面は由伸のあまりの状態のよさにこっちが引っ張られてしまいました。
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