侍ジャパンはなぜこれ以上ないエンディングで世界一を果たせたのか 栗山英樹「野球の神様がシナリオを書き始めた」 (3ページ目)
5回からの3イニング、由伸は自分のボールを思い通りにコントロールできていたんです。ところが追いついた途端、急に球が上ずるんですよね。あの由伸でも同点に追いついて、さあ、いこうとなったら、勝ちたいというプレッシャーに呑み込まれてしまって、ボールが抜け始めます。あれは想定外でした。
【WBCで一度だけ情に流された】
WBCの決勝。3−1とアメリカを2点リードした日本は8回、ダルビッシュ有がカイル・シュワーバーに一発を浴びて1点差に追い上げられた。9回、大谷翔平がブルペンから出る。大谷がDHからピッチャーへ、同時に栗山監督はレフトの吉田正尚に代えて牧原大成をフィールドへ送り出した。牧原のポジションはセンター、そしてセンターのラーズ・ヌートバーをレフトへ回す。
僕はこのWBCでは、絶対に情に流されまいということを心に誓っていました。勝負とは非情。相手が超一流選手だからといって、試合に出たいだろうなとか、この打順やこの役割を託さないと申し訳ないとか、そういうことより、今、この時点で勝つ確率がもっとも高い手を選べないことのほうが選手に失礼だと思っていたんです。
僕の打つ手は勝つ確率が高いからそうしているんだろうと、選手たちみんながわかっていると思っていましたし、『小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり』の言葉を噛み締めながら戦っていこうと意識していました。
目先の小さな優しさ(小善)はいいことに見えるけど、本当は相手のためにならない大きな悪につながる。でも信念を持って相手のことを本当に考えて行なう大善は、厳しいことも含めて非情に見えるけど、それが将来に生きることがある。選手のためにと言いながら、どこまで大善を貫けるだろうというところは絶対に守るべきだと、自分自身に約束していました。
でも、WBCでたった一度だけ、情に流されたシーンがありました。
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